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第73話 すれ違う気持ち
「……もういいですか? オレ、仕事がありますので」
そう言って立ち去ろうとした黒崎を、
「待つんだ! 黒崎」
沢井は手首をつかんで引き留めた。
沢井にしてみれば、写真の正体もよく分からないのに、彼とこのまますれ違ってしまうなんて、絶対に嫌だった。きちんと話し合い、誤解を解こうと思った。
けれども、一度傷ついた繊細な心は、そう簡単には戻らないようで……。
黒崎は以前よりも深く心を閉ざしてしまった。
「離してくださいっ」
彼が、渾身の力で沢井の手を振り払おうとしたとき、屋上の扉が開き、三月がやってきた。
黒崎は体を強張らせて、ゆっくりと沢井のほうを見る。彼の冷たい美貌は、とても悲しげに見えた。
「……あとはお二人で話し合ってください」
黒崎は沢井から目を逸らすと、つかまれた手首をふりほどき、三月の横を足早にすり抜け、去って行った。
茫然と立ち尽くす沢井に、三月がツカツカと近づいてきて、声高に叫んだ。
「あなたいったい黒崎になにをしたのっ!?」
「…………」
「だから言ったでしょう!? 中途半端に手を出すと、あの子を傷つける――」
「うるさいっ……」
沢井は思わず激昂したが、すぐに我に返った。……三月には関係ないことだ。
「ごめん、三月」
「沢井……」
「悪かったよ、怒鳴ったりして」
……でも、君の登場は、あまりにも間が悪すぎたよ。
沢井は焦燥に駆られる心の中で、そう呟いた。
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