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第75話 一つの決意
誤解を解きたいと強く願う沢井の気持ちもむなしく、黒崎は完全に心を閉ざしてしまった。
幾度も、二人で話し合いたいと言ったが、彼は、「仕事が忙しい」の一点張りで、とりつくしまがない。
もともと協調性はなかったが、輪をかけてひどくなった。
黒崎は毎日、仕事を黙々とこなし、自身のスキルアップの勉強に明け暮れている。
美貌の顔は冷たい無表情で、沢井を見る瞳にも感情をのぞかせない。ただ事務的に接するだけだ。
沢井は焦燥に駆られていた。
黒崎がポーカーフェイスの仮面をかぶり、一人でいるのは、裏を返せば、彼が人一倍寂しがり屋で、裏切られるのを恐れているからだ。
だからこそ、沢井に裏切られたと思い込んでいる彼は、すごく苦しんでいるはずである。
このままだと、黒崎の心は本当に沢井から離れて行ってしまう。
沢井は悩みぬいて、ある一つの決意をしたのだった。
源氏ケ丘大学付属病院から、電車で一駅のところにある喫茶店で、沢井は元妻である三月を待っていた。
沢井は窓の外に視線を投じる。
黒崎が心を閉ざしてしまってから、季節は一つ進んで、冬になっていた。
ここ数日は気温があまり上がらず、道行く人々も体をすくめて歩いている。
カランカランとドアが開く音がして、三月が店へ入ってきた。
「……勿論、養育費は今まで通り振り込む。でも愛奈とは二度と会わない」
沢井がそう話を締めくくると、三月は白い頬を怒りに染めた。
「あなた、自分がなに言ってるのか分かってるの!? 私たちが離婚しても、あなたが愛奈の父親であることは変わらないのよ! 確かに愛奈はあなたにはあまり懐いていないわ。でもそれは、あなたが冷たいからでしょう!? なのに、あなたはこれ以上あの子に冷たい仕打ちをするの!? だいたいこれは私たちのことであって、どうしてそこに黒崎が関係してくるのよっ!」
彼女がいうことは正論だった。
沢井は冷酷で勝手な男だと自分でも思う。
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