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第76話 揺るぐことのない想い
けれど、どんなに自分勝手であろうと、これが沢井の出した答だった。
激昂する三月と対照的に、沢井はゆっくりと口を開いた。
「これはオレが勝手に決めたことだ。黒崎にはなにも言うなよ」
「あなたは黒崎のことしか考えていないの!?」
「ああ」
沢井の迷う素振りもない肯定に、三月の顔が怒りに強張ったまま凍り付く。
「オレはあいつを取り戻すためなら、なんでもするよ」
静かに、でも揺るぎない声で沢井は、そう言い切った。
次の日の夜、沢井は、珍しく終わりの時間が一緒になった川上に、飲みに誘われた。
「おまえ、いったいなにを考えてるんだ? 沢井」
有名チェーン店の居酒屋のカウンター席に腰を落ち着けた途端、川上がとがった声で聞いてきた。
「なんだよ? 突然」
「三月に、もう愛奈ちゃんとは二度と会わないって、宣言したんだって?」
「話が早いな。もう聞いたのかよ?」
沢井は苦笑した。
「三月、めちゃくちゃ怒っていたぞ。オレも今回ばかりはおまえが一方的に悪いと思う」
川上は苦々しい顔である。
「分かってる。自分でもそう思うよ。愛奈はかわいそうだとも思う。こんな男を父親に持って」
「……って、なに他人事のように話してんだよ! 沢井。なんか黒崎がらみって聞いたけど、黒崎のことと、おまえが愛奈ちゃんと会わないことがなんの関係があるんだ?」
「…………」
「……もしかして、黒崎がおまえに頼んだのか?」
川上の的外れな意見に、沢井は肩をすくめた。
「まさか。それどころかプライベートではまったく口もきいてくれないよ」
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