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第77話 求めているもの
「そうだよなー。……なあ、沢井、ずっと聞きたかったんだけど、どうして黒崎はあんなふうになっちゃったんだ? なんていうかもう、世の中のすべてに心を閉ざしているって言うか、見ていて痛々しいくらいだよ」
川上の言葉に、沢井はきつく目を閉じて呟いた。
「あれは、オレのせいだ」
「だと思った。以前は今ほどひどくなかったもんな。……けっこうショックだったから、よく憶えてるんだけど、確か休むはずの黒崎が突然、真っ青な顔してやって来て。あのときからじゃないか。黒崎が今みたいになっちゃったのは」
「……ああ」
沢井は両手を組んで、その上にシャープなラインが綺麗な顎を乗せると、深く溜息をついた。
「……沢井、おまえ、黒崎といったいなにがあったんだ?」
川上の問いかけに、沢井は小さくかぶりを振った。
「それは言えない。……けど」
「けど?」
川上が重ねて聞いてくる。
「あいつって、本当は愛情を求めることに貪欲なんだと思う。オレは」
沢井が言うと、川上は首を傾げた。
「そうかあ? まったくそんなふうには見えないけど。なんせいつも無表情だからなー」
「オール・オア・ナッシングっていうやつかもな」
「はあ? なんだ、それ。沢井」
「だからさ、すべてが手に入らないのなら、いっそなにもいらないって感じなんだよ、あいつは。中途半端な愛情ならいらない、黒崎はきっと心の底ではそう思ってる。自覚はないだろうけどな」
「沢井……、だから、おまえ……」
「ああ。オレという人間すべてを、あいつにあげたいって思ってる」
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