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第87話 理不尽な仕打ち
体がガクンと揺れた衝撃に、黒崎は意識を取り戻した。
だが、それでも目の前に広がるのは一面の闇。……その闇が目隠しをされているせいだと気づくまで数分かかった。
黒崎は車に乗せられていた。
目隠しをされて、手は意識を失う前と同じく後ろ手に縛られたままで、後部座席と思われるところに座らされている。
口を塞ぐガムテープはもうなかったが、ほとんど感覚はなく、声は出そうになかったし、出そうという気力さえなかった。
隣に座っている男が、黒崎が目覚めたことに気づいたようだ。
三人のうちの誰なのか、黒崎には分からなかったし、もうそんなことどうでもよかった。
男は、黒崎の肩に手を回すと、耳元で囁いた。
「黒崎、今夜のことは警察には言うなよ? ま、言ったところで恥かくのは、おまえなんだしな。……黒崎、大学時代はテスト前にさんざんノートを借りて、お世話になったのに、ひどい目に遭わせて悪かったな。こういうのを、恩を仇で返すっていうのかな」
声には反省の色など微塵もなく、むしろ楽しげな笑いを含んでいる。
「でもさ、オレたち、おまえにはちょームカついてもいたんだよね。おまえって、いつもその綺麗な顔でオレたちのこと見下すようにしてただろ。そういうところが気に食わなかったんだよ、ずっと。まあ、今夜、再会したのが不幸だったと思ってくれや」
そのあとすぐに車は止まり、黒崎が座っているほうのドアが開いた気配がした。
そして、黒崎は目隠しをされたまま思いきり突き飛ばされて、車の外に投げ出された。
胸部をしたたか地面に打ち付け、瞬間、息がとまる。
「じゃーな、黒崎」
言葉と同時に車が再び動き出す音がして、あっという間に走り去ってしまった。
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