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第89話 無断欠勤

「おい、黒崎から連絡はあったのか?」  夕方の外来を終え、スタッフステーションへ戻ってきた沢井は、その場にいた山本に聞いた。 「いいえ。まだなにも。さっきから黒崎のスマホに電話してるんですけど、留守電になってしまって……」  山本の返事に、沢井の不安は増してくる。  黒崎はこの日、夕方の外来の担当だったが、診察が始まる時間になっても姿を見せなかった。  いつもは誰よりも早く来て、カルテに目を通すというのに。  とりあえず沢井が黒崎の代わりに診察に当たったのだが、嫌な胸騒ぎがしてならなかった。  最近の黒崎は、とても疲れているようだった。  写真のことがあってから、プライベートでは沢井と話もしてくれなくなったし、以前にもまして協調性もなくなった。  とはいえ、黒崎は医師としてはプロだ。どんなに自分の心に屈託を抱えていても、仕事に支障をきたすことはなかったし、むしろ仕事だけに打ち込んでいるといった感じだった。  勿論、今まで彼が遅刻や無断欠勤をしたことは一度もない。  いったいどうしたんだ? 黒崎。  まさか、事故にでも遭ったんじゃ……。  不安が沢井の胸を圧迫してくる。 「一応、留守電には、すぐ連絡くれるように入れておいたんですけど……」  黒崎と同期の山本も心配顔である。 「……分かった。なんか気になるから、黒崎の家へ行ってみるよ。オレは、今日はもう終わりだしな」  沢井は山本にそう言い残すと、慌ただしくその場をあとにした。

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