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第91話 彼になにがあったのか
「黒崎っ!」
沢井は叫んで、中に入った。
黒崎が部屋に入ってすぐのところで倒れていたのだ。
黒いハーフコートを着て、靴もまだ履いたままだ。帰宅してそのまま倒れ込んだ、という感じだった。
血の気の引いた顔、いつもはサクランボのような唇もカサカサに渇いて、色を失くしている。
脳梗塞や脳出血の疑いもあるので、むやみに動かすのは危険だった。
沢井は救急車を呼ぶべく、スマートホンを取り出した。
そのとき、黒崎がかすかに声を発した。
「……い先生……?」
「黒崎? 大丈夫か!? 今救急車を呼ぶから――」
沢井が言いかけると、黒崎は薄っすらと瞳を開け、小さくかぶりを振った。
「呼ばないで……ください……。お願いです……」
「黒崎? おい、黒崎っ!?」
だが、黒崎は再び瞼を閉じてしまった。そして目尻から一滴の涙が零れ落ちる。
脳梗塞など、なんらかの急な発作で倒れたわけではなさそうだった。
「黒崎……」
そっと体を抱きしめてみて、その冷たさに驚いた。
いったいいつからここで倒れていたんだ!? すぐに暖めないと……!
室内で、コートを着ているとはいえ、今の季節、冷え切った部屋の冷たい床の上、下手をすれば凍死する可能性もある。
沢井は体温が下がりきった黒崎を暖めるため、彼を抱えあげると、バスルームを探して部屋を見渡す。
ワンルームのため、すぐにバスルームの場所は分かった。
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