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第96話 無力感
「そうですか。じゃあオレがなにされたのかも全部分かりましたよね……?」
「…………」
「オレ、三人の男に強姦されました。大学時代の知り合いです。睡眠薬入りのコーヒーを飲まされて……、笑っちゃいますよね。これでも一応医者なのに、薬入っていることに気が付かないなんて……」
黒崎は虚ろな表情と抑揚のない声で、自分を襲った災厄を話し出す。……その様子は明らかに普通ではなかった。
もともと口数の少ない彼が、少し早口で次々と言葉を発するのは、彼が精神的にかなり参っている証拠である。
「それで、気がついたら、マンションの一室で」
「黒崎、もうやめろ」
「あいつら。本当にしつこくて何時間もオレを――」
「やめるんだ! 黒崎」
沢井は彼を強く抱きしめた。
「……頼むから、もうやめてくれ。黒崎……」
沢井は声を振り絞った。
腕の中でじっとされるがままになっている華奢な体。
……オレはおまえを守ってやれなかった。
今も、なにも言えず、ただ抱きしめてあげるしかできない。
沢井は自分の無力さを呪った。
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