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第97話 冷静さを装う
沢井に抱きしめられ、黒崎の心は徐々に落ち着きを取り戻していった。
彼の腕の中に包まれていると、黒崎はすべてのものから守られているような安心感を得ることができた。
……精神安定剤みたいな人だな……。
そんなふうに思い、声は出さずに微笑み、まだ笑える自分自身に驚いた。
沢井先生がいてくれれば、オレはどんな目に遭おうと、きっと乗り越えられるんだろうな。
……それは儚い願いと知っているけれども。
沢井先生がオレのことを大切に思ってくれてるのは確かだろう。
でも、あのとき見た、幸せそのものの家族写真が忘れられない。
いつかは沢井先生は家族のもとへと行ってしまい、オレは一人残されることになる。
そんな結末が待っているくらいなら、初めからなにもないほうがいい。
誰にどれだけ傷つけられても、一人で乗り越えてみせなければ。
あの三人のケダモノたちが、また自分のもとへやってきそうな恐怖を感じていても。
「沢井先生……、離してください。もう大丈夫ですので」
努めていつも通りの声を出し、沢井の体を押し返そうとしたとき、黒崎は初めて気づいた。
彼の体が細かく震えていることに。
……ああ、沢井先生はオレ以上に怒り、苦しんでくれている。
沢井の優しさが、さんざんに蹂躙された心を癒してくれるようだった。
「……沢井先生、オレなら平気ですから」
冷静さを装った声で言う。
「…………」
「確かにひどい目に遭いましたけど、オレは女性ではないし……」
「……黒崎?」
沢井が黒崎と視線を合わせてきた。彼の茶色がかった瞳が綺麗で、泣きそうになるのをこらえる。
「……あんなことは、オレが忘れてしまえばすむことです」
「おまえ……」
沢井はひどく苦しそうな声を出した。
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