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第99話 告白の波紋
「……ありがとうございます、沢井先生……。今度こそ本当に大丈夫ですから……」
子供のように泣きじゃくったあと、黒崎は沢井から体を離そうとしたが、彼に引き戻されてしまった。
こんなの、困る、と黒崎は思う。……こんなふうに優しくされ過ぎると、オレはまた甘い夢を見てしまいそうだから……。
沢井は、腕からすり抜けようとする黒崎を包み込んで離さないまま、言った。
「おまえは誤解してるようだけど、オレは三月にも子供にも未練なんかないから」
「…………」
「あの写真は、オレ自身も忘れていたものだったし。それにもう写真はないよ」
「……え?」
「三月に返したからな。……それと、オレはもう一生、娘と会うつもりはない。三月にもそれは伝えた」
沢井の言葉に黒崎は愕然とした。
「そんな……、そんなこと、オレは……」
「ああ。これはオレが自分で望んで決めたことだ。だからおまえが気にすることじゃない」
「でも、沢井先生……!」
さすがに戸惑う黒崎の瞳を、沢井は真っ直ぐに見つめてきた。
「黒崎、オレの人生まるごと、おまえにやるよ。だから、ずっと傍にいてくれないか……?」
「……沢井先生……」
黒崎はパニックに近い状態に陥ってしまった。
「そんな、だって、オレは……」
オロオロと同じような言葉を繰り返す。
オレは、そんな、沢井先生の人生を変えてしまうことなんか、望んでいない。
だが、心の奥深くで別の声が囁く。
……うそつきだな。おまえはずっと、沢井先生が自分だけを見てくれることを望んでたじゃないか。他人とはかかわりたくないと言いながら、沢井先生を独り占めしたいとずっと願っていただろ?
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