107 / 109
第107話 親友の胸の内
川上と沢井の目が合った。
途端に、沢井のほうも固まってしまった。
大人の男二人がポカッと口を開けて、フリーズしている姿は、第三者が見ていればさぞや滑稽に映ったことだろう。
奇妙な沈黙が何秒か続き、その沈黙を破ったのは、黒崎だった。
「……おかえりなさい。……沢井先生」
黒崎の冷静な声に、ようやく二人の金縛りが解ける。
「あ、ああ。ただいま、……黒崎。……川上、来てたんだ?」
「来てだけど。お邪魔だったかなー?」
いや、別に嫌味を言ってるわけじゃないんだけど。でもねー。
「そんなことないよ。……でも、そうだな、川上、ちょっと外出ようか。近くに美味しいコーヒーを飲ませる店ができたんだ。おまえコーヒー党だろ?」
沢井は苦笑しながら川上にそう言うと、続いて黒崎に声をかけた。
「Tongaに行ってくるよ。おみやげにあそこのチョコレート買ってくるから」
沢井の言葉を受け、黒崎のポーカーフェイスがみるみるほころんでいく。……が、川上の存在に気づき、慌ててそっぽを向いた。
川上は度肝を抜かれるくらい驚いた。
本当に一瞬だったが、黒崎が笑ったのを見たのだ。
あの無表情で愛想の欠片もない黒崎が、あんな顔をするなんて……。
初めて見る黒崎の笑顔は、まさしく天使のような、と形容するのがふさわしい愛くるしさで……。
彼女もいて、まったくのノン気の川上でさえ、クラリとするくらい、魅力的だった。
「じゃ、ちょっと行ってくるから」
「行ってらっしゃい、和浩 さ――」
今度は黒崎が口を滑らせたようで、慌てて口に手を当てている。
……雅文に和浩さんかよ。
オレの知らないうちに、この二人すっかりラブラブじゃねーか。
ずっと親友と黒崎のことを心配していた川上は、なんだかとてもあほらしい気持ちになっていた。
*
。
ともだちにシェアしよう!