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第108話 同棲
コーヒー専門店、Tongaは、沢井のマンションから歩いて五分くらいのところにあった。
「いったいどういうことだ!? 沢井! おまえら一緒に暮らしてんのかよ!?」
沢井がコーヒーを二杯注文して、ウエイターが行ってしまうやいなや、川上がテーブルに身を乗り出して聞いてきた。
「ああ、まあな」
「いつから!?」
「一カ月くらい前からかな……」
「なんで隠してたんだよ!?」
「いや、別に隠していたわけじゃないけど。わざわざ大々的に発表することでもないし」
「そりゃ、まあ、そうだけど……」
川上は面白くなさそうな表情をしている。
「悪い。おまえには話そうと思ってたんだけど。ここんところ忙しかったし、なんとなく照れくさくて」
「あっそ。……でも、良かったじゃん。完全にラブラブじゃないかよ。おまえと黒崎」
「まあ……、そうかな」
面と向かってそんなふうに言われると本当照れくさい。
「それにしても既に一緒に暮らしてるとは、びっくりしたぜー」
「うん。オレのマンションのほうが病院からも近いし、なにかと便利だしな」
「一緒に暮らせば、毎日、顔見れるもんなー」
川上がニヤニヤとからかってくる。
「二人ともシフトが合わなくて、病院で会えなくてもマンションへ帰るとあいつがいる。……オレ、超幸せだよ、川上」
「へーへー、言っとけ。でもさ、言ってくれれば引っ越しの手伝いに行ったのにー」
「手伝ってもらうほど荷物、なかったんだよ」
引っ越しは本当に簡単に済んだ。
黒崎の荷物が極端に少なかったからである。テレビや冷蔵庫、洗濯機などは、沢井の家にあるものを二人で使えばいいので、彼が持っていた物はリサイクルに出したり、処分したりした。
だから、荷物と言えば、ノートパソコンや衣類、本くらいで、引っ越し屋を頼むまでもなく、レンタルしたワゴンで事足りた。
黒崎が沢井のマンションへ引っ越してきて、最初にしたことは、猫の絵を飾る場所を探すことだった。あの、沢井がプレゼントした猫の絵だ。
結局、寝室に飾ったのだが、二人が愛し合う姿をあの猫はもう何度見ていることだろう……?
そう思うと少し恥ずかしい。
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