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肉豆腐⑤
「お疲れさまでしたぁ!」
「おう。お疲れ。気をつけて帰れよ。」
手を振り帰っていく大和にそう声をかけた。
今日もほぼ売り切れ。
有難い事です。
流石に腹減ったな。。
一日ほとんど何も口にしてない。
昼間にイワシの梅煮と交換で 明がコロッケを
持ってきてくれた。
それと飯と。。後は。。
ショーケースの空バッドを片付けていると
ふと 前方に目が止まる。
ガードレールに座り込むように男が
一人 体を丸めていた。
なんだろ。
見た事無い顔だな。
商店街からは一本路地を入った立地で
飲み屋が集中しているのはメイン通りの入口。
あまりこっちには酔っ払いも来ないけど。。
ショーケースの脇を抜け 外に出て男に近づく。
長い髪が肩までかかりボサボサで。
無精髭にセンスの無いメガネ姿。
長い手足を投げ出し背中を丸め ぐったりしていて
眠っているようにも見えた。
酔っ払って迷い込んできたかな。。
それにしたって よくこの体勢で寝れるね。。
半ば呆れながら ポンポンと肩を叩き
俯く顔を覗き込んだ。
「お兄さん。こんな所で寝てたら危ないよ。」
ピクッと体が動き のそのそと顔が上がる。
ああ。意外と若いか?
俺と変わらないくらい。
声を出そうとして出ないのか 金魚のように
パクパクと口を開け ゆるゆると長い腕が
俺の首に巻き付くと そのまま全体重を
俺に乗せてきた。
ちょ・・ちょっと待って。。
こ・・こいつデカイ。。
支えられずそのままコンクリートにひっくり返る。
耳元で微かに「メ・・シ・・腹・・何も・・。」
と聞こえ 大きな掌は震えながら
俺のシャツをぎゅっと握った。
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