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肉豆腐⑥

渡した麦茶をマッハで飲み干し ゴホゴホと 咽せている。 今のこのご時世でねえ。。 引き摺るように店の中へ連れ込んで まずは水分。 それからキッチンに置いてあるテーブルの 椅子に座らせ 前に丼をドンッと置いた。 大盛りご飯に肉豆腐を乗せ ツユをたっぷり。 いい匂いが辺りに漂い 男はゴクンと唾を飲み込み 丼と俺を 交互に見比べている。 「ほら。食え。」 煙草に火をつけ そう言うと かすれ声が返ってきた。 「あの・・でも・・お金・・。」 「いらねーよ。持ってたらそんな風になんねえだろ。 残りモンだから 気にしないで食え。」 しばし躊躇し それでも耐えきれなくなったのか 貪るように食べ始めた。 あらら。 もう無くなる。。 すげえな。 苦笑いが口元に浮かび 煙草を咥えて誤魔化すと 明のコロッケにソースをかけて 前に置いてやる。 「山田屋のコロッケ。最高に旨いから こっちも食っていいよ。」 丼から顔を上げ じっと俺を見る。 コクンと頷きコロッケを掴んでパクっと齧り付いた。 「・・旨いです。」 ああ。やっとまともに声出るようになったか。 意外と低くて甘い。 「だろ?」 自分が作ったんじゃないけど 褒めてもらうと 嬉しいモンで。 空のコップに麦茶を注ぎ 山菜おこわが入った 容器も ずらして目で食うように促した。 「お兄さんさ。いくつ?」 焦って食ったからか 喉に詰まり ドンドンと 胸を叩くと 急いで麦茶を持ってゴクゴク飲んだ。 あーあ。 「誰も取らないからゆっくり食いなよ。」 そう言うと 恥ずかしそうに顔を赤らめ 「27です。。すいません。迷惑かけて。。」 と頭を下げる。 俺の一個下か。。 肘をテーブルにつき 顎を乗せ おこわをムシャムシャ食べる姿を眺めながら 「今時 その年で行き倒れ寸前とか どーしたの? 金 全く持ってないのか?」 そう尋ねると あ。はい。。と箸を置き 背筋を伸ばして真っ直ぐに俺を見て 口を開いた。 「ちょっとトラブルに巻き込まれまして。 働いていた所も家も無くなり それでも なんとか日雇いとかで 食いつないでいたんですけど 先週からそれにもありつけなくて。。」 はあ。。なるほど。 それで たまたまここで力尽きたってのか。 でもなぁ。。 腕を伸ばし 眼鏡を取って テーブルに置き ボサボサの前髪をザッと後ろへ撫でつけた。 「ほら。ちゃんと身なり整えりゃ いい男なんだし そっち方面で仕事あるんじゃないの?」 「え。。。」 男はドギマギしながら 慌てて髪を自分で戻し 急いでメガネをかける。 「すいません。。洗ってないんで汚いですから。」 情けなさそうに眉を下げた。 まあ。だよな。 風呂も入ってないか。 「流石に店には風呂は無いからなぁ。。」 いくらなんでも見ず知らずの奴を家には 連れて行けない。 銭湯ももうこの時間じゃやってねーしな。。 考えていると ブンブンと首を振り 「とんでもないです。。飯食わせて貰って。。 あの。必ず代金は払います。 俺。一ノ瀬春と言います。ありがとうございます。」 立ち上がり 深々と頭を下げた。

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