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カフェオレ⑤

春が店のシャッターを閉めて中に戻ると 佑は牛乳を鍋に入れ火にかけ 温めていた。 コーヒーのいい匂いがして テーブルには マグカップが二つ。 さっき買ってきたマンデリンか。。 「いつも通りって言われたんですが。」 そう伝えると マスターは頷き 慣れた手つきで豆を袋に入れ 口を閉じるとビニール袋に入れて はい。と渡し 「オマケしといたよ。」と笑みを浮かべた。 「・・ありがとうございます。」 頭を下げると 手をひらひらと振られ 「今度 佑くんとコーヒー飲みにおいで。 旨いの。淹れてあげるから。」 そう言って ウィンクして。。。 匂いに誘われるようにテーブルに近づくと 佑さんは顎をしゃくり 椅子に座るよう促される。 「・・さっきは悪かったな。」 崇さんと喧嘩をしたのか 佑さんが珍しく 声を荒げていて。 崇さんが帰った後 何も無かったかのように 一切話さなかったから そのままにしていたけど。 でも いつもより口数が少なくて。 あんな風に怒るイメージが無かったから 内心驚いたし それでいて とても 傷ついているようにも見えた。 首を振ると それ以上は何も言わない。 コンロの火を消し 鍋を持ち上げると マグカップに注いで スプーンでかき混ぜた。 なんだか ほわんと温かみを感じる匂い。 「はい。お待たせ。カフェオレな。 崇のとこ パン屋なんだけど牛乳も売ってんだ。 親戚が牧場やってて直接卸してて パンより大人気。 味が濃いからマンデリンと合わせると抜群だぞ。」 ほら。と促され カップを持ち 口をつける。 ああ。。本当だ。 「・・旨い。。」 「だろ。なんだか幸せな気分になるんだよな。 ちょっと懐かしいっていうか。 うまく説明出来ねえけど。」 佑さんは ずずっと飲み 両手でマグカップを 持ったまま 頭上を見上げ ホッと息を吐く。 「ああ。そーだ。これな。」 すっと茶封筒をテーブルに滑らせた。 え。と視線を佑さんに戻す。 佑さんは煙草に火をつけ 煙を吸い込み 「バイト代。一か月お疲れ様。 随分慣れて 助かってるよ。家の事もな。」 住み込みで働かせて貰うようになって一か月。 あっという間だった。

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