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第4話

「おい」 「ハッ!僕としたことが……すっかり寝てしまった」 教室に戻ると丁度昼休みが終了の時間だった。すっかり授業のことを忘れていたのでちょうど良かった。しかし、昼食後のLHR、窓から舞い込むさわやかな風に揺れているうちに僕はすっかり眠りこけてしまっていた。そしてすっかり放課後となった教室。 声を掛けてきたのは……あれ?誰だ?新垣かと思ったが、彼の見た目とは随分違う。おい新垣どこにいった。 新垣は…もっと身長が高い。新垣は眼鏡をしていないし、新垣の髪の毛はもっと茶色い。 目の前にいる彼は僕より少し高いくらいの身長で、黒ぶち眼鏡をかけている。髪の毛はもっさりとした黒で眼鏡に髪の毛がかかっていて目が見えていない。 おそろしくオタクっぽい見た目だ。 「…はじめて見たな、君は」 「あ?はじめて?俺もう転校してだいぶ経つけど」 「転校生か……そうか、おはよう。………って、転校生!?もしや君が噂の!!!」 「噂?噂とかどうでもいいけど、俺今日日直。お前は早く寮に帰るか部活に行けよ、教室の見回りできないだろ」 「ああ、日直か……ってそうじゃない!!君、名前は!!?」 「牧野聡(まきのさとる)だけど、俺初日に自己紹介したぞ?失礼な奴だな~」 ハハッと笑いながら僕の肩を叩く彼に、僕はむっとした表情を向ける。 そうすると心なしかそわそわした牧野聡に僕は首を傾げた。 「お前は、高嶋だったよな。確か」 「何で知っているんだ!」 「新垣が呼んでるじゃん。高嶋隊長とか、唯人とか、たいちょーとかって。親衛隊なんだっけ?」 「そうだ!僕は会長様の親衛隊隊長なのだ!だから牧野聡、君!君に言いたいことがある」 「なんだよ」 「会長を悪の組織にいれようと、貶めようと言うのならまず僕が相手になる!!」 「……はあ?」 「君は会長様以外の生徒会役員達を次々と虜にしたというではないか!僕は…僕は!正直彼らのことなんかどうでもいい!!」 「……」 「でも会長様のことは困る!」 「…あぁ」 「会長様にまで手を出すというのなら、僕が君の相手になろうじゃないか!」 「……それってお前は俺の言うこと、聞くってことか?」 「くっ……それもやむを得ないだろう」 「……はははははははっ!!!」 「なん、なんだ、何を笑っている!!」 「ここってアレだろ、ホモとかバイばっかなんだよな?」 「…一部そう言うものもいる、だが僕が僕を許すのは会長様たった一人だ!」 「俺は正直そーいうの、全く興味なかったんだけど……現に真面目に一生徒演じてるし」 「?」 「お前、めちゃくちゃおばかだけど見た目は今まで見てきたどんな奴より綺麗だよなまじで。黙ってたら女優顔負けで綺麗なのに、しゃべると馬鹿すぎてめちゃくちゃ可愛いな」 「あた、当たり前だろ!僕は誰よりも僕を保つために努力している!僕を越えられるのは会長様だけ……」 何やらいきなり褒めてきた?転校生に、悪い気もしないで僕は腰に手を添えて偉そうなポーズをしてやる。 「俺の珍しさに、あいつらはひっかかたみたいだけど……」 「あいつら…」 「生徒会のやつら」 「ああ、彼らか」 「会長はどうでもいいだろうな。そもそも全部あいつのせいだし、ていうか俺とあいつは似てるから天地がひっくり返ってもまずない」 「な、なななな!!何を言っている!!お前と会長のどこが似てるだって!?撤回しろ!!」 あまりに身の程知らずなもの言いに僕は盛大に顔をしかめて彼に掴み掛かった。 そうすると牧野聡は静かに髪の毛を……髪の毛をとった!!は、禿げてしまう!と思いきやそこから出てきたのは会長様と同じ色のハニーブロンドヘア、眼鏡まで外しだし、するとそこには会長様そっくりの青みがかった綺麗な瞳。会長は切れ長の二重だが、彼の目は会長に比べたらもう少し大きくて可愛らしいものだ。 しかし、……あまりにも会長と似ているその姿に思わず倒れかけた……。 鼻血が出そうだ。 すかさず僕を支える彼の腕は、会長のものより随分細いが、それでも僕よりはずっと逞しい。 「あいつとは年子の、実の兄弟なんだ。親が離婚して性は違うけどな。あいつは父親に、俺は母親に引き取られた。仲は悪くないんだけど、俺とアイツはいっつも好みが被るから喧嘩は良くしたよ」 「……う、ど、どうすれば……同じ顔が、ふたつ……」 どちらも自分からすれば、奇跡に近いような素敵な存在だ。 藤沢様の見た目こそが自分のストライクゾーンど真ん中だと思っていた。だが今、僕を支える彼もまた僕のど真ん中をズシンとぶち抜いてきた。 そ、そしたら性格だ!藤沢様は文武両道、才色兼備、にっこり笑って僕に命令をする彼に僕はいつも痺れて体中に電気が走ったような感覚に陥る。 彼……牧野はどうだろう。生徒会役員達を次々と虜にし、日直だと言い僕を起こした、僕の容姿をいきなり褒めだし、何故か今僕を抱える……。 性格はよく分からないが、こんなに密着していることに緊張感が生まれた。 「は、はなして、くれないか」 緊張で目が潤み、怯えたような声を出した僕に彼はごくりとのど元を上下させた。 「お前は、俺の言うことを聞く。つまり俺のものになるんだよな?」 「え?いや、あの、その…」 「会長なんかに興味ねえよ、」 「いや、僕が言ったのはそう言う意味じゃ」 顔がどんどん近づき、よく分からないこの状態に頬が熱くなる。何を、彼がしようとしているのか、そう、きっと、キスだ。そう思うとどうすればいいのか分からなくて、目をつぶった瞬間だった。 いきなり僕を支える支えがふわっとなくなり、ガッツーンと痛そうな音がした。 同時に違う何かに支えられ、がっしりとしたその感覚に、目をぱちくりさせる。 「っっ~~~~ってええええナア!!!んだこのクソ野郎!!!!」 「てめえ俺の獲物に何してやがる、しまいにゃ殺すぞ!」 「クソ兄貴!!!」 「こいつは俺のもんだ、悔しかったらこいつを惚れさせてみろ、」 「か、かいちょうさま……」 僕を抱える会長に、今までにない彼の表情を見た。 まるで獰猛な獣のような、目の奥に炎が燃え上がる。 しかしああ、相変わらず格好いい……。 うっとりとしていると、会長は僕に顔を近づけ、あっという間にキスをひとつ。 「え、エエエエエエエエエ!?」 「君のことはゆっくりゆっくり落としていこうと思ったんだけどね、君はあまりに鈍感でおばかさんで、放っておくとこんなクソ野郎に簡単に手込めにされてしまいそうだからもう我慢も限界だよ」 「かい、ちょう?」 「ああ、言っておくけど……俺は王子様でもなんでもねえからな。お前のとこの副隊長も、お前のことが好きで俺の親衛隊なんかに入っているだけだ。だからお前はさっさと親衛隊なんて辞めろ」 「おいおいおい、兄貴!さっきから俺を無視してんじゃねえ!」 「うるせえな」 「この俺がわざわざ転校してきて願い事叶えてやったつうのに何だよの仕打ち!生徒会のやつら全員惚れさせたらご褒美やるって言ったよなあ!?だったら俺はこいつが欲しい!!」 「バカだなあお前、生徒会の奴らが唯人の魅力に気付く前に他の奴を生け贄に差し出すのが目的だったんだぞ?唯人をお前に渡すわけがない」 「〜〜〜〜またかぶったよ、最悪だ!俺の方が先に見つけたと思ったのに!!くそ、俺は諦めねえぞ!ぜってえ高嶋のこと、奪ってやる!言っとくけどな、高嶋は俺に見つめられて満更でもない顔してたぞ!」 「なんだと?」 「え、あの……だって会長様と同じ顔で」 「ああまったく、これだから唯人は……可愛い」 そう言って会長はまた僕にキスをする。でも今度は噛み付くようなそれで、口の中に会長の舌が入ってくる。縦横無尽に動き回るソレに、僕は何もできずに体の力だがふにゃふにゃと抜けていくのを感じた。 「ん?眠いのか唯人」 「……い、え……」 言葉にならない声を出した、と思う。 あまりに色々なことが一気に起こりすぎて頭がパンクした僕は、そのまま意識を失った。 「は、ちょうどいい、起きたら全て夢に変わるよ唯人……君の憧れの会長は、まだ憧れのまま。今見たことは全部夢だ」 誰かの声が聞こえた気がしたけど、もう何も聞こえなかった。

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