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第2話
「陽平、こっちとこっち、どっちがいい?」
学校帰りのコンビニ。
先輩はいつも優柔不断で、買うものを一人で決められない。
「俺的には……イチゴ味ですかね」
「じゃあ、それにしよ」
そう言って、先輩はイチゴ味の棒付きキャンディを手に取った。
「陽平もなんか買うか?」
「俺は、えっと……ん〜、別にいいっす」
「また変な敬語使ってる」
「あ、い、いい!で、す……」
慌ててそう言うと、先輩は俺の額をこつんと小突いて笑った。
だって先輩は先輩だし、そう簡単にタメ口なんてきけるわけない。
そんなことを思いながら、俺は思わずにやけていた。
「レジ行くぞ」
「はい」
「ほんと、いつになったら敬語やめてくれんの」
「……だって先輩だし」
「先輩である前に、陽平の彼氏じゃ……」
「ちょ!レジの前でそんなこと言わないでくださいよ!!!」
「ふぁっへふぉふぉえー」
先輩の口を両手で塞ぐと、何語か分からない声が漏れた。
「ごめんごめん」
「まったくもー……」
会計をすませて、ピロリロリーンという音とともにコンビニを出る。
「なんで日本って、同性愛だめなんだろーな」
「まあ……一般的に女性と交尾して子孫繁栄すべき世界ですし」
「交尾言うな。愛の営みと言え」
「なんすかそれ」
「セックスには愛がないとダメってこと。交尾じゃ愛を感じねーよ」
「まあ、先輩に言わせたらそうかもですね」
他愛もない話をしながら、俺たちは公園へ向かう。
昨日たまたま立ち寄ったとき、先輩が子どもと遊びだして、その子が「明日も来てね」とごねたからだ。
「陽平」
「はい」
「今日、公園で子どもと遊んだあとは……もちろんうち泊まりに来るよな」
「……いやな予感が」
「いやな予感?イイ予感の間違いじゃなくて?」
「ハハハ……はあ」
先輩が好きだった。
こんなにかっこよくて優しくて、なんでもできちゃう人を、好きにならないほうがおかしい。
あの告白は、告白とも言えないような、陳腐なものだった。
今思えば、あのときの俺って、よく勇気出したと思う。
毎日女とメールしてるような女好きの先輩に、告るなんて。
「好きっぽいんですよね、あなたのこと」
隣で誰かにメールしている先輩に、何気なくそう言った。
返ってきたのは「そうなんだ」だけ。
ああ、振られたなと思って俯いた瞬間、
顎を持ち上げられて、キスされた。
そのとき、先輩がモテる理由がわかった気がした。
一度突き放しておいて、絶妙なタイミングで自分の世界に引き込むその感じとか、抱きしめられたときにふわりと香る香水の匂いとか……。
そんなすべてが、先輩の魅力に拍車をかけていた。
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