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第3話

幸せは長く続かないなんて──誰が言ったかは知らないけれど、本当にその通りだった。 付き合って二ヶ月も経たないうちに、先輩はまた女の子をとっかえひっかえしはじめた。 俺がそれを問い詰めると、先輩は本当に申し訳なさそうな顔で「ごめん、陽平が一番好きだよ」と謝る。 そんなことが何度も続いた。 そのうち俺も慣れてしまって、 「今度は可愛い系か」とか「今度の子はスタイルがいいな」とか、校門から出て他の女と一緒に帰る先輩を、屋上から普通に眺められるようになっていた。 ──普通に、と言っても、胸中が穏やかなわけじゃない。 はらわたが煮えくり返りそうなほど、隣を歩く女 のコに嫉妬していた。 先輩も憎い。けれど、それ以上に、隣の子が憎かった。 どうして先輩は俺じゃなくて、あんな、どこにでもいるような“女の子”と……。 何度もそう思って、何度もどうして自分は女じゃないんだろうと思った。 別に俺はホモなわけじゃない。 今までは普通に女の子と付き合ってきた。 だからきっと、俺はバイなんだと思う。 でも、先輩はきっと本当は女の子のほうが好きなんだ。 だから、俺じゃだめなんだと思った。 「先輩……」 「陽平じゃん。あ、これ食べる?」 屋上に行くと、先輩はフェンス越しに空を眺めながら、一人であの棒付きキャンディを舐めていた。 ポケットから出てきたのは、いつかのイチゴ味。 先輩が舐めているのも、やっぱりイチゴ味だった。 “またイチゴ味を買ってくれたんだ”── そう思うと、胸の奥が少しだけ温かくなった。 でも、あの頃みたいに素直に笑うことはできなくて、俺は苦笑いでそれを受け取った。 「……せんぱ」 「あのさ」 「……はい」 「空、きれーだよな」 「そうですね」 「……俺……一番好きなのは陽平だよ」 「……はい」 頬を伝う涙を、もう止められなかった。 俺だって先輩が一番好きだ。 先輩以外、好きになれない。 先輩以外に“愛してる”なんて言える人はいない。 でも──きっと、先輩には“二番目”がいる。 俺以外にも、愛してる人がいる。 俺だけじゃ、だめなんだ。 俺だけの愛じゃ足りないんだ。 そんなの嫌だった。 でも、離れるのはもっと嫌だった。 先輩がいないなんて、そんなの今の俺には耐えられない。 いや、違う。 今だって、先輩がいつも隣にいるわけではない。 きっと俺は、先輩が俺を捨てて、ほかの誰かを“一番”にしてしまうのが怖いんだ。 「陽平、好きだよ」 「俺も好きです」 俺と先輩以外、誰もいない、少し肌寒い屋上で、先輩に抱きしめられる。 春はもうすぐそこなのに。 俺は、先輩がいなきゃ、春になっても夏になっても、きっと凍えて死んでしまいそうな気がした。

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