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第6話
そのまま俺は気を失って、気がついたら、家のベッドの上だった。
先輩はいなくて、家族も誰もいない。
寂しいのに、先輩のセーターを着せられていて、額には冷却シートが貼ってあった。
だからか、心の奥は少しだけあたたかくて。
でも、その分だけ痛かった。
どうして、あんなに優しい先輩が――
どうして?なんで?
俺だけじゃ、だめなの?
ふと、携帯の着信音が鞄の中からくぐもって響いた。
のろのろと手を伸ばし、画面に表示された名前も見ずに通話ボタンを押す。
「陽平……具合は?」
「先輩……」
「キッチン、勝手に使わせてもらった。おかゆ作っといたから、よかったら食……」
「先輩は、どうして俺に優しくするんですか」
その言葉で、先輩の声を遮った。
「お前が好きだから」
「じゃあ、なんで」
「だって……しょうがないだろ。俺はもう――」
「もう?」
「お前が好きだけど、好きでいちゃいけない。でも、手放せない。誰かのこと、こんなに好きになったの初めてで……どうすればいいのか、わかんねぇよ」
「先輩が何言いたいのか、全然わかんないですよ」
「……お前を愛したい。悲しませたくない。幸せにしたい。……さんざん苦しめておいて、今さらこんなこと言っても信じてもらえないって、わかってる」
電話越しに聞こえる先輩の声が、痛いほどに胸に響いた。
「先輩、会いたいよ」
「俺も、会いたい」
「会いに行っても、いいですか」
「俺が行く」
どうして、こうなってしまったんだろう。
こんなに好きで、こんなに愛しているのに。
俺たちは、いつも未完成で、
ちっぽけで――
愛し方を、知らない。
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