6 / 9

第6話

そのまま俺は気を失って、気がついたら、家のベッドの上だった。 先輩はいなくて、家族も誰もいない。 寂しいのに、先輩のセーターを着せられていて、額には冷却シートが貼ってあった。 だからか、心の奥は少しだけあたたかくて。 でも、その分だけ痛かった。 どうして、あんなに優しい先輩が―― どうして?なんで? 俺だけじゃ、だめなの? ふと、携帯の着信音が鞄の中からくぐもって響いた。 のろのろと手を伸ばし、画面に表示された名前も見ずに通話ボタンを押す。 「陽平……具合は?」 「先輩……」 「キッチン、勝手に使わせてもらった。おかゆ作っといたから、よかったら食……」 「先輩は、どうして俺に優しくするんですか」 その言葉で、先輩の声を遮った。 「お前が好きだから」 「じゃあ、なんで」 「だって……しょうがないだろ。俺はもう――」 「もう?」 「お前が好きだけど、好きでいちゃいけない。でも、手放せない。誰かのこと、こんなに好きになったの初めてで……どうすればいいのか、わかんねぇよ」 「先輩が何言いたいのか、全然わかんないですよ」 「……お前を愛したい。悲しませたくない。幸せにしたい。……さんざん苦しめておいて、今さらこんなこと言っても信じてもらえないって、わかってる」 電話越しに聞こえる先輩の声が、痛いほどに胸に響いた。 「先輩、会いたいよ」 「俺も、会いたい」 「会いに行っても、いいですか」 「俺が行く」 どうして、こうなってしまったんだろう。 こんなに好きで、こんなに愛しているのに。 俺たちは、いつも未完成で、 ちっぽけで―― 愛し方を、知らない。

ともだちにシェアしよう!