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第1話の4(←皇帝ZENNの本心に気づかぬマリアの君)
居酒屋とはいえ、麗華と初めて話した席でMOONの五人の若造は驚き、麗華の次の言葉を待った。
見つめられた彼の方が困っていた。
「いや…ZENNちゃんは何て言うの、エキゾティックな感じが好きなんだよ。せめて仁(ジン)君のような顔が良かったって…」
仁というのはZENNの二才下の弟で、ギルティーの副社長である立花仁(ひとし)のことである。
容貌では、彼はおよそZENNと似たところがなかった。
大きな瞳の、彫りの深い端整な顔立ち。
マリアのバンドのベーシスト・CUEまでとはいかないが、マリアくらいはある身長の、たくましい体つき。
それが、ZENNと同じ上品で落ち着いた物腰とあいまって、いかにも青年実業家といった雰囲気の人物だった。
初めて麗華という人と同じテーブルに着き、ビッグ・アーティストらしからぬ気さくな人柄に驚いたのも忘れられないが、酔いに紛れてふと彼がもらしたZENNの意外な一面も、マリアの記憶にはしっかり刻み込まれている。
「ヘンな気持ちってのはないけど。」
ZENNの声にマリアは現実に引き戻された。
「昔の自分達を見てるみたいで放っておけないってのはある。俺達にもこんなハングリーな頃があったよなあ、って。」
暖かな笑顔が、マリアには慕わしく思えた。
が、ZENNがROSEと自分達を重ねている、そのことは畏れおおくてたまらなかった。
そう、そんな風にしかこの時のマリアは考えられなかった。気がつかなかった。
パーティーがお開きになると、悪いけど明日も早いから、とZENNは二次会を断っていた。
いくらタフな彼でもそうだろうとマリアは思った。
人一倍のハードスケジュールをこなすだけでも大変なのに、自分達のような青二才のライヴに足を運んでくれて、さらにこのパーティー…
しかしマリアはZENNに耳元で囁かれていた。
「時間があるなら、僕の家に来ないか? 」
感激してマリアはうなずいていたのだ。
来た時と同じようにZENNのベンツに乗せられ、彼の横でひたすら緊張し始めた頃、さすがにマリアも何かあるのではないかと思い始めた。
(引き抜き? 新しいプロジェクトとか? )
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