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第1話の5(←皇帝ZENNが妙に気になるマリアの君)
「なあ、運転替わらないか? 気分のいい夜だし…」
ZENNは身を乗り出して、金髪のドライバー・ローディーに声をかけた。
「だめですよ、社長。副社長に怒られます。」
助手席のボディーガードまで、
「社長、何より飲酒じゃないですか。」
ZENNをひたすら慕い、専属になったというローディー軍団の彼らだったが、だからこそ、ZENNの安全を守ることには徹底しているようだった。
ZENNは今度はマリアに向かって、
「仁の奴は俺のことをスピード狂だといってハンドルを握らせてくれないんだ。まったく…スピードなくして何の人生だ。そう思わないか、マリア? 」
「その哲学を、世間はスピード狂と呼んでいるのでは…」
マリアが冗談めかして言うと、ZENNもローディ達も大爆笑した。
そうか、そうだな、と言いながら、なおも笑い続けたZENNは笑みをうっすらと口元に残す。
その横顔からマリアはどうしてか目を離すことができなくなった。
車の窓から差し込む街の明かりに照らされる彼の顔立ちは、切れ長の綺麗なまぶたとぽってりした唇、細い顎のせいか、少女のような清楚さまで漂わせていた。
素顔がやや中性的だからといって、二十七才の男性に対してそんなことを感じるなんておかしい、ともマリアは考えたが、実感は打ち消せない。
肩まで覆う金髪のせいかとも考えたが、それをかきあげるZENNのしぐさは紛れもなく男性のものだった。
(不思議な人…)
「どうかした? 」
見る者を包み込むようなZENNの笑顔は一層暖かみを増していたが、そんなことが言えるはずもない。
「いいえ、別に…」
しかしそう答えながらも、マリアは、あの伝説のカリスマがおごり高ぶったところもなく、それどころか六歳も年下の自分のような若造に対しても真剣に向き合ってくれる人間であったことに感激していたのだった。
ZENNの住まいは、見るからにセキュリティシステム万全の高級マンションの一室だった。
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