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第1話の6(←皇帝ZENNの寝室にマリアの君)

 ドライバーとボディーガードは地下の駐車場で帰したのだが、本当は部屋まで送っていくのがきまりらしく、ZENNは二人を説得するのに苦労していた。 その様子から、狂信的なファンにここまで押しかけられた経験でもあるのだろうとマリアは察し、痛ましさを感じた。思わず、割って入った。 「あの…俺、ケンカには割と自信あるんで…何かあったらZENNさんを守ります。」 もちろん二人はまだ不服そうである。それが妙にしゃくにさわったマリアはきっぱりと言い切った。 「見た目はこうでも、大丈夫ですから。」 二人はマリアの見幕にあきれたようだったが、ZENNもその言葉に乗ってきたので、しぶしぶ承知して帰って行った。  二十四時間体制の受付を通り抜け、エレベーターに乗ると、案の定、ZENNはこんなことを言ってきた。 「ここに移ってからはないけど、前のマンションでは追っかけに押しかけられて…それでナーバスになってるんだ。でも、その一方で、俺は自由も望んでる…だから、さっきの君の言葉は有り難かった。」 意外にも、自分や仲間のミュージシャンを馬鹿にした飲み屋を何軒も破壊したなどという武勇伝をもつ彼だが、ケンカは弱いタイプだとマリアは見ている。 そう、お付きの者に守られるタイプの人間…自分が今、そのお付きの者だと思うと不思議な気がした。 すると、急に、ZENNは頭をマリアの肩にもたせかけてきた。 「…ZENNさん…? 」 「ごめん、飲み過ぎたのかな。何だか気分が悪くて…」 「大丈夫ですか? 」  彼に肩を貸しながらエレベーターを降りると、導かれるままマリアは重いドアを開け、部屋に入った。 「…ベッドルームはあっちなんだ…」  間接照明の暖かな明かりがついて、まずマリアの目に飛び込んで来たのは、部屋の中央に置かれた、天蓋つきの豪華なベッドだった。 天蓋やベッドカバーにふんだんに使われた真紅のベルベットが、プロモーションビデオやグラビアでの、ZENNのバックじみていて、似合いだった。 が、この上でZENNの愛を受ける美女は何と幸せだろうと思わせる反面、男一人を横たえるには何だか奇妙な感じを抱かせるベッドでもあった。 「どうした? 」 「い、いえ、すみません…」

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