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第1話の6(←皇帝ZENNの罠に落ちるマリアの君)
マリアの手を借りてベッドに横になったZENNはジャケットのボタンを外し、
タイも取り、シャツのボタンも外した…
それが、乱れた金髪のせいか、マリアには妙になまめかしく見え、目のやり場に困った。
「…水でも持ってきましょうか? 」
「いや、いい。それより、ここに座れ。」
マリアは困った。
「いえ…俺にはもったいないですよ…」
「いいから、まあ座れ。」
その時までマリアには意味がわかってはいなかった。
というより、ZENNともあろう男が滅多なことをするはずもなく、
マリアは警戒ということを一切してはいなかったのである。
マリアはベッドに浅く腰を下ろした。
するとZENNはなぜか自分からは目をそらしたまま、優しい声でこんなことを尋ねてきた。
「なあマリア、メジャー・デビューしたくないか? 」
マリアはただただ驚き、何と言っていいかわからなかった。
インディーズだってこれからなのに…ZENNはもう一度尋ねてきた。
「マリア、どうした? 」
「びっくりして…いや、それはもちろん、メジャーに行けるものなら行きたいですよ。」
「行かせてやろうか。」
「えっ? 」
急にZENNは身を起こし、マリアの側ににじり寄ってきた。
「その代わり…」
ZENNの手に、マリアは顎を持ち上げられた。目を見据えられた。彼は酔ってなどいなかった。
ハメられたのだと、マリアはようやく気がついた。
「どういうことですか。」
「そんな怖い顔しなくてもいいだろう? これから楽しもうっていうのに。」
「ちょっと待って下さい。俺は男ですよ。」
「知ってる。それで? 」
マリアは絶句した。麗華の話は嘘だったのか? グルになっているのか?
それとも、これは麗華も知らないZENNの姿なのだろうか?
「マリア、どうなんだ? デビューしたいのか、したくないのか…」
一瞬でわかったことは、NOという言葉は許されないということだった。
「したいです。」
なぜか、無理やり微笑んでいた。
「わかった。じゃあ、いいな? 」
また顎は持ち上げられ、ZENNの顔が迫ってくる。しかし、マリアは目を閉じなかった。
逆らえば、バンドはどうなるだろう。
マリアはそれだけを思っていた。自分のためにバンドの将来が絶たれては…
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