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第1話の9(←挑発に乗るマリアの君)
背を向けて横になっているのはあまりに惨めでベッドの上に座ったマリアは、小声で、よろしくお願いします、と言うのがやっとだった。
自分の身に起こったことが信じられなかった。
喜びと恥ずかしさがないまぜになっていた。
あの後、今度は自分がZENNに奉仕すべきではないかと思った。しかしもう、彼にはすべては終っていたのだった。
「そんな殊勝な顔してもダメだ。お前の魂胆はわかってるよ。」
「えっ…? 」
急にZENNは体を起こすとマリアの顔を下からのぞきこみ、
「いつか見てろと思ってるんだろう? 悪いことじゃない。肉を斬らせて骨を断つ、なんてのは俺も大好きだからな。」
ZENNはいつもの調子に戻っていた。
「だったら、早く上にあがってこい。俺との距離を縮めろ。」
重すぎる課題をぶつけられ、さすがのマリアも何も言えない。
ZENNは身を起こすとまたすりよってきてマリアの肩を抱き、微笑みかけてくる。
「アルバムを、百万枚売ってみろ。東京ドームを満杯にしてみろ。」
それを聞いた途端、マリアは相手がZENNであることも忘れて、きっ、とにらみつけてしまった。
しかし彼は動じる気配もない。ただ、口を開きかけたのを途中でやめ、いきなり手を放した。
「今日はもう帰っていい。」
マリアは拍子抜けしてしまった。
ZENNはベッドから滑り下り、置いてあった白のバスローブを羽織っていた。
それからマリアの方を向くと、
「今夜は、俺のささやかな夢に協力してくれてありがとう。」
「夢って何ですか? 」
きまりの悪さから、ぞんざいな口調で尋ねてしまった。
「ん? 俺はこの腕に自分を抱きたいんだ。抱いて、自分がどういうヤツなのか、じっくりと観察してみたいんだ。」
「? 」
「なにせ俺はナルシストだそうだから。今夜は君のおかげで近いセンまでいったかな。」
それだけ言うとZENNは、あっけにとられているマリアにはかまわず、ドアに向かって歩きだした。
が、ノブに手をかけたところでふと振り向き、
「お前に足りないものは地位と名声だけだ。早くそれを手に入れてくれ。」
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