14 / 100
第2話の2(←現実に引き戻されるマリアの君)
(何でもZENNさん、ZENNさんだ。そんなに…)
衝撃を受けたのがしゃくだった。
(この次会ったら…)
そうじゃない。そんなもんじゃない…会いたい…頭の奥が疼く。腕は、同じくらいのたくましさの腕を恋しがっている。年上の巧みな女に奉仕させるより、ZENNのいいようにされる方が、受け身になる方がはるかに…ZENNの美しく、優しい瞳も慕わしかった。マリアは大きくため息をつき、我と我が両腕を押さえ込んだ。
その時、けたたましくチャイムが鳴った。この子供じみた鳴らし方は決まっている。ドラムのタカネだ。高校の時からの付き合いで、叩くドラムはストレートなくせに気配りの濃やかな優しい男。彼にカンづかれませんようにと祈りながら、マリアはドアを開けた。
「あ、いたいた。よかったあ。ほら、ギターとアンプ。」
「ごめん、わざわざ…」
「いや、いいんだ。それより昨夜どうだった? みんなで心配してさあ…」
ギターとアンプを片付けながら、マリアは呼吸を整えた。
「ひたすら疲れたよ。気ィ使いまくって…。」
「やっぱりZENNさんて、怖い人? 」
「いや、そういうんじゃなくて、何ていうの? ZENNさんは…」
名前を口にして、テレた。
「どしたんだよ、お前。」
タカネの方がよっぽどくつろいでいる。マリアはごまかすのに苦労した。
「ごめん。頭がこっちにもどってきてないの。昨夜見せられた世界が違い過ぎて…」
半沢のパーティーのいきさつを、マリアはこと細かに話した。もちろん、家に連れて行かれたことは伏せた。
「何だよそれ。そこまでされると、かえって薄気味わるくないか? 」
どきっとしたマリアは話をそらそうと、
「そこまでしても、俺達を契約させたいんじゃないの? ギルティーの希望の星、なんてね。」
意外にもタカネは真面目にそれを受け、
「案外そうかもな。昨日の打ち上げの帰り、CUEがこそっと言ってたんだけど、ギルティーでも、シークレット・ラヴァーズの後、第5番目のバンドってまだ出てないじゃん。今、新人て言ってるバンドって、他のレーベルからの移籍組だろ? あれって、レコーディングの直前にトラブってダメになったバンドがあるからだって。」
「その後が俺達か。」
「多分。でも、みんなで言ってたんだけど、どうしてお前だけ、昨夜は連れてかれたんだろう? 」
ともだちにシェアしよう!