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第2話の3(←メジャーに近づくマリアの君)

この答えは用意してあった。 「ZENNさんは俺達のことまだよくわかってなくて、俺がバンドのリーダーだと思ってるんじゃないかな。楽屋でも俺ばかりしゃべっちゃったし。」 「まあ、ステージネームもらってるのは、お前だけだけど。」 初めてタカネとの間に隔たりのようなものを感じ、マリアは黙った。 「いや、ヘンな意味じゃないけど…ひがんでんのかな、俺。」 タカネの正直さは嬉しく、マリアはフォローしたかったが、うまい言葉が思いつかず、黙り続けるしかなかった。 「…お前だけ引き抜かれたりすんのかな、なんて、考えたりして…」 悲しかったが、口には出せない。だからその代わりにと、とっておきの情報を教える。 「冗談じゃないよ。がんばり次第によってはメジャーに推薦してやってもいいって言われたんだから。」 「それを早く言えよ! 」  話ばかりでなく笑顔も作っていたマリアがふと目を転じると、電話の留守録のライトが点滅している。由真かな、と思っているとベルが鳴り、テープが残り少なかったのかすぐに留守録に切り替わり、怒ったような男の声が語り始めた。ベースのCUEだった。マリアはあわてて受話器を取った。 ―留守電聞いてくれた? どうする? 聞いていないと謝ると、CUEは根気よく最初から話をしてくれた。  昨日、ライヴのために家を空けている間にレコード会社二件から話がきており、今日あわてて相手に連絡を取ったのだという。一つはCUEがかつて手伝いをしていたバンド(メジャーデビューしたが、またインディーズに戻ったバンド)が在籍していた会社。もう一つは、スタジオの人経由で知らされた、マリアの亡父の仲間だという。 ―マリアのお父さんとバンドやってた人で、俺も名前聞いたことあるんだけど、江波さんていう、ポップス系のプロデューサーやってる人。ほら、この前イベントに出た時、レコード会社の人に声かけられて、ビデオ送ったのあったじゃん。それを見てMOONが気に入ったんで、マリアと話がしたいって。 ―ちょっと待って。今、タカネも来てるんだ。 タカネは、ZENNの推薦の話をしろとぱたぱた騒ぐ。 ―もしもし、CUE、聞こえる? あのさあ、俺の方は昨日…ZENNさんにがんばり次第ではグランデに話してやるって言われたんだ。 ―…それ、本当?  CUEも言葉を失った。一気に、レコード会社三件から請われる身になったのだ。みんなのバイトが終わった後、夜の十二時にマリアの部屋に集まることにして電話を切った。 「MIKUは今の時間はもうバイトだよね?」 「シヴァはCUEがかけるの? 今、シヴァってバイトしてるの? 」 「配送センターに戻ったよ。欲しいギターができたんだってさ。」 またベルが鳴った。 ―松岡さんのお宅でしょうか? 優輔さんですか?  男の声に、一瞬マリアの血は逆流しかけた。でもすぐに違うと気づく。 ―ギルティー・レコードの、副社長の方の立花です…  ZENNに似た落ち着いた声は、ZENNの弟の仁(ひとし)だった。

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