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第2話の5(←熱い会議が終わらないマリアの君)

「ステージの一番奥から、まあ、お客の動きとお前達の背中を見てるだろ。最近だと客とバンドが一緒になって楽しんでるのがよくわかるんだよ。それって、曲だけが愛されてるんじゃなくて、俺達のすべてを客が認めてるってことだと思うんだ。他のバンドより過激なカッコして、お客を刺激して、一緒に楽しもうぜって俺達全員が言ってるのが受け入れられてるってこと、ロックの、暗黙のきまりごとより、みんなが楽しむことの方が大事だ、ってわかってるバンドが俺達だってこと…」 マリアは思わず黙り込んでしまう。ギルティーから声がかかってからというもの、特にメジャーの話が来た今日に至っては、どうして自分は肝心なことを…たかだかZENNの寝室に呼ばれたくらいで…忘れることができたのか。自分の愚かさを思い知らされていた。 「じゃあギルティーに決まりだよね。」 MIKUのその冷静な声さえしゃくに触るほどだった。 「じゃあ、マリアもそういうことで、いい?」 突然平静にもどったようなCUEの口調に、どうしてかマリアはキレた。 「何だよCUE、その言い方。」 「何怒ってんだよ。」 「俺はギルティーに入るとなったら腹くくるよ。どんな辛いことがあろうが、地べた這いずりまわろうが、ギルティーの中でトップに立つよう、一日でも早くメジャーに行けるよう努力するよ。でも、お前らはどうなの? そこまで腹、くくる気あんの? 」 「マリア何だよその言い方。」 「さっきから聞いてりゃお前ら甘いよ。おこがましいよ。ギルティーから声がかかっただけ有り難いよ。」 「落ち着けよ、二人とも。」 MIKUのとりなしも、マリアにはきかない。 「ギルティーの、一番端っこの席に連なるのだって、想像以上の苦労だろうよ。何せトップのZENNさんの状況がすごいんだから。狂信的なファンに追われて引っ越しまでする。セキュリティー万全のマンションに住みながら、ドアまでガードマンに守られて帰る。殺人的なスケジュール。その一方で人脈を維持するためにパーティーも出る。俺達みたいな若造の発掘もする。プライベートなんてあったもんじゃない。しかもクォリティーの高い作品を発表し続けるのは大前提…」 「そうかいそうかい、たった一晩でロック・ビジネスに洗脳されて、単独契約でもしてきたか? 」 とうとうマリアは立ち上がり、それを受けるかのように立とうとするCUEを、タカネとシヴァが必死で押さえた。 「CUE、マリアは今日、頭飛んでるから…マリアも言い過ぎだって。」 「マリア、俺達もこれからいろいろと覚えていくから…とりあえず昨夜一人だけ大変な思いさせたことは謝るよ…」 シヴァの言葉にマリアは動揺した。他のメンバーが見ていないところをいつも見ているシヴァ。カンのいい彼は、実は見抜いているというのだろうか。ちらっと彼の瞳を探るが、わからない。言葉に詰まっていると、 「シヴァ、俺達ばかり謝ることなんかない。外で覚えてきたことを伝えてくれるのがメンバーだろう? それが教えてくれもしないで何だっていうんだ。それにマリア、メンバーを侮辱するってことは、自分を侮辱するってことだろ。」 痛い指摘だった。 「昨日のライヴの出来が良かったのは、この五人全員の力だろう? どうしてお前、今日に限ってそういう冷たい言い方するんだよ。」 「なあ…」 そっぽを向いていたMIKUが口を開いた。

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