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第2話の6(←インディーズの老舗とマリアの君)

「こうやって俺達を仲間割れさせるのが目的なのかなあ、ZENNさん達って。」 「は? 何で? 」 「契約までも何だか長かったし、昨日はマリアだけ拉致しちゃうし。ROSEを食いそうなバンドは芽のうちに摘んでしまうと…」 「何言ってんだよMIKU。」 がっかりしたタカネが叫ぶ。するとCUEは体勢を立て直し、いつものような口調で、 「マリア、俺は腹くくったからな。お前こそ後から泣きごと言うなよ。」 恐る恐るマリアはCUEの顔を見た。彼の真剣なまなざしを見た途端、マリアは後ろめたさも愚かな迷いも忘れた。 「泣かねえよ。誰が泣くか。」 言いながら、マリアは久し振りに幸せな気分になっていった。自然に笑みがこぼれていくのがわかった。 「それじゃみなさん、ギルティーでいいですね。いいって人、手をあげて。」 MIKUのおどけた調子に、みんなは微笑みながら手を上げた。  五人がギルティー・レコードを訪れたのは、その二日後の夕方だった。整然としたオフィスの、さほど広くない会議室に案内されたメンバーは、副社長の仁、MOONの担当となるプロデューサー以外に、長谷川というグランデのディレクターを紹介され、驚いていた。 「まあそんなわけで、説明したように、契約にあたってはまず、これまでのバンドと同じだけの条件を約束します。が、今回はMOONを見込んで、プラスアルファをつけます。グランデのバックアップです。」 メンバーの表情が動いた。 「それは、これまでのバンドより売れてくれなければ困るということでもあります。で、それなりの実績を上げてくれればグランデの方からメジャー・デビュー、と。」 約束は果たされたのだった。他のメンバーの驚きに紛れて、自分の一瞬の動揺もさほど目立たなかっただろうと、マリアは素早く計算していた。それにしても、と不安になってマリアはそれとなく仁の様子を探る。彼は、兄と自分の関係を知っているのだろうかと。 「ま、補足させてもらうなら、この契約書はギルティーさんとの契約だけのものであって、メジャーについては何の拘束もしているわけじゃない。」 長谷川が仁よりもくだけた調子で話し始めた。 「つまり、ギルティーでがんばっている間に他のメジャーと接触することを妨げるものじゃない。ただ、そうなれば、その状況はグランデに知らせてほしい。話によっては僕達もいろいろ考えなくてはいけないから。」 「ただ、ウチと契約したとなれば、グランデの支援は受けるわけだから、そこは考慮してほしい。」 仁の様子はビジネスライクというよりは「帝国」の実務面での代表としてのものに見えた。 「インディーズとは言っても、日本を代表するミュージシャン、ZENNの会社に入るわけだから、それ相応の自覚は持ってほしいんです。それを考慮したうえでサインして下さい。もし今日、バンドの意見がかたまらないようであれば、後日改めてでも構いません。」

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