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第2話の8(←打ち上げ花火とマリアの君)
そして、連れのディレクターも巻き込んで、
「一目でわかった。サエちゃんのお姉さんにそっくりなんだよ。ビデオでね、一発でわかった。似てるってよく言われない?」
親しげな江波の様子をマリアは嬉しく思いながらも、
「いえ…父親の方の親戚とは一切つきあいがないし、母も何も言わないものですから…」
すると、江波は本当に困った顔をして、
「…それはすまなかった…」
「い、いえ、ルーツがわかって嬉しかったです。俺、親父にもオフクロにも似てないの、気にしてたんで。」
マリアのフォローに彼はほっとした顔をした。
「…まあ、今日ここに来てもらったのはそのためばかりじゃないんだけど。君達のバンドが、ビデオで見ても面白かったし、あまりに評判がいいのでね。どこか、インディーズとでも、契約の話はあるんじゃない? 」
「もう、ギルティーと契約しました。」
それまでとは打ってかわった冷ややかな口調になってしまったことに、マリアは自分でも驚いていた。
「ギルティーっていうと、あのZENN君のところか。」
江波は気にくわない様子だった。
「いや、あそこがどうっていうんじゃなくて、君達にはどうかなと思って。メジャーはグランデっていうことにもなりかねないし。せっかく曲がメロディアスで、ボーカルが聴かせるボーカルなんだ。そっちを伸ばして、もっとファン層を広げた方がいいと思うよ。」
CUEがイラ立っているだろうと思うと、気が気ではなかった。しかし、連れのディレクターも付け足すように、
「あそこってお祭り騒ぎでしょ。ムードで煽って、若い子にCD買わせるようなとこが…」
「そりゃ、ムードってものも音楽には必要だよ。でも、それだけじゃないんだ。」
思わずマリアとCUEは顔を見合わせてしまった。お互いの考えていることはすぐに読めた。ROSEに共感できない人が、自分達をいくらほめてくれてもそんなの的はずれだ…
「ビジュアル重視で行くと、打ち上げ花火になっちゃうよ。俺はギルティー全体、っていうか、あの、ZENNて人の方法論をそう見てるけどね。でも君達は本当にいいバンドだから、アセらずに、息の長いアーティストを目指すべきだと思うんだ。」
そこで彼はCUEに向かって、
「君がバンドのリーダー? 」
「いえ。うちはリーダーってものがいないんです。五人平等で、多数決で何でも決めるんですよね。」
「そうか…」
一向に話にのってこない二人を江波も攻めあぐねたらしく、とうとう、ギルティーでやってみて困ったことがあったらいつでも相談にのると言い出した。しかしマリアには、
「バンドの話には関係なく、お父さんの話が聞きたくなったら電話ちょうだい。」
と笑顔で言い置いていった。
CUEの車に乗り込むとすぐにマリアは、
「悪いけど、これ預かってくれないかな。」
と、江波たちの名刺をCUEに差し出した。
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