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第2話の9(←マリアの君と小娘)
「持ってるのもなんかイヤだけど、捨てるのも…寂しくて。」
「じゃあ持ってりゃいいじゃん。お父さんの話、聞きたくなるかもしれないし。」
「それが向こうのテだろ。」
「まあそうだけど、だからってお前が丸め込まれるとは思わないし。」
「まあ俺はギルティーに洗脳されてるしな。」
「根に持つなよ…俺だって反省…してるんだから。」
マリアは驚いてCUEの顔を見た。彼はバックミラーに気を取られているような顔をして、
「お前にあん時怒鳴られといてよかったよ。そうでなきゃ、契約の時の仁さんのあの雰囲気に、俺は堪えられなかったねえ。」
こそばゆくなったマリアは、ダッシュボードに名刺を置いた。
「やっぱりCUE、預かっといてよ。」
「俺はいいけど…」
「ROSEくらいビッグになったら、呼びつけて聞かせてもらうさ。俺の親父ってどんな人だったんですか、って。」
ぴしゃりと言い切るマリアの口調でこの話題の終わりを悟ったCUEはまったく違う話を始めた。なあマリア、ツアーになったらバイトやめるしかないよな。九州まで行かせてもらえるなんて嬉しいけど、経済的にキツいね。そう答えながらマリアはZENNの億ションを思い出していた。
その日はタカネとシヴァのバイトが終わってから、いよいよレコーディングのリハーサルを始める予定だった。それじゃあまた後で、とCUEと別れ、アパートの階段を上がると、部屋のドアの前に、学校帰りの制服姿の由真が、困ったような顔をして立っていた。どきっ、とした。それが由真の目には怒ったように見えたというのだろうか。
「ごめんなさい。すぐ帰るから。全然電話もないから心配で見に来ただけなの。」
必死で謝るその姿がかわいそうで仕方なかった。日頃どれだけ自分が彼女につらく当たっているか見せつけられている気がした。
「ごめんね。バタバタしてたから…詳しく話すから上がってかない? 」
由真の顔がぱっと明るくなった。そしてあわてて、いいの? と尋ねてくるのに、
「もう、現金なヤツなんだから。」
テレるあまりマリアは言ってしまった。まあ、部屋に入る時は、肩は抱いてやったのだが。
(この章終わり)
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