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第3話の6(←コスプレを拾ったマリアの君)

「どうも。」 ファンにウケる、だだっ子っぽい、横柄な口調でYOUは礼を言ったが、その子はまだ話したい様子でついてくる。YOUはもうメークも落とし、普段着に着替え、ストイックなミュージシャンタイムを終えていたので、無視して歩いていた。が、連れの女とその友達にはカンに触るらしく、 「子供は帰りなさいよ。」 「コスプレはコスプレらしくライヴの時だけいればいいの! 」 「一回や二回見たくらいでファン面するのはやめてよ。あたし達の方がYOUのこと、MOONのこと、よくわかってるわ! 」 「はいはい。でも今は、YOUはプライベートタイムなんだから。」 友達の言葉に、それまで無言だった女は冷ややかに笑っていた。その表情は、あんたが何を言おうとYOUが寝たいと思っているのはこの私よ、という優越感に満ちていた。それを見たとたん、YOUは、この女とは寝たくない、と思った。その時、彼の視界に飛び込んで来たのは、コスプレの、唇をかみ締めて女を見据える目の鋭さだった。 ―今にみてろ! その目はそう言っていた。  YOUの中で、何かが弾けた。それは、まさしく今の自分だった。腕に抱き取れる自分の姿だった。  女の手を振りほどくと、YOUはコスプレに歩み寄り、優しく声をかけた。 「お前、高校生なんじゃないの? こんな遅くまでふらふらしてていいのか? ん? 」 居合わせたみんながあっけにとられていたが、そんなことは気にならず、 「俺、送ってくわ。」 と今度はコスプレの手を取ってふらふらとYOUは歩き出した。ふと、路上に止めてあった自転車が目についた。誰のものかもわからないそれに手をかけると動いたので、さっさとサドルにまたがった。 「お前、ウチ遠いの? まあ乗れよ。」 彼女が恐る恐る腰に手をまわしてきたのを確かめると、ドレスの裾気をつけろよ、と言いながら、YOUは深夜の街をあてもなく、ペダルをこぎだした。メンバー達が何か叫んでいたが、もう気にならなかった。 「ねえ、どっちに行けばいいの? 」 「あの…ここでいいです。隣町なので…」 「そんなわけにはいかないよ。」 「あたし、もう、充分に幸せだから。」 「こんなもので? 」 「うん。」 彼女の腕に力がこもった。なんだかこの女の子が可愛らしくなって、 「俺の部屋に遊びにこない? 」 途端にバランスが崩れ、YOUはあわててブレーキをかけた。 「大丈夫? 」 振り向くと、ステージの格好の小さな自分が自転車から飛び下りて、おびえた目で自分を見ていた。 「あたし、そんなつもりじゃ…あたしは、ただ、YOUさんのこと何もわかってない人に腹が立って、かみついただけ…」 「お前みたいな若い子に何もしやしないよ。女なんか間にあってるんだから。自分にそっくりなヤツの服脱がせてどうするんだよ。」 あはは、と彼女はようやく笑い、そうですよね、とまた荷台に乗ってきて、YOUにしがみついてきた。もう暴れるなよ、と釘を刺すと、方向転換をしてYOUは進み出した。 (<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)

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