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第3話の9◆マリアの君の奇妙な生活?

 曲作りに忙しく、気にしていながらも、YOUからは電話しなかった。彼女の方から電話がきたのは三日ほど後の夜だった。いいメロディーが浮かんで、それをまとめようとしたところだったので、由真とわかってもゆっくり話したいとは思わなかった。 ―ごめん。今取り込み中だから。 それどころか、気にしていながら電話をしなかったのは自分なのに、 ―ねえ、どうしてうちの番号わかったの? 教えた覚えがなかっただけに、女の子の図々しさを見たような気がして不快になっていた。 ―昔のチラシを見たの…バンドの問い合わせ先がライヴハウスになってなかった頃の… 消え入りそうな声で答えるのを聞いてYOUは後悔したが引っ込みがつかず、こっちからかけると繰り返して電話を切った。  それからギターを手にしたが、どうも気になって仕方がなく、どうにか曲の形にまとめると、すぐにフォローの電話を入れた。自分だとわかると、由真は大喜びだった。さっきのそっけなさを謝り、曲を作っていたのだと説明すると、安心したような声で、こっちこそごめんなさいとひたすら謝る。 ―ねえ、明日会おうか? 俺、バイトが七時で終るんだよね。 ―それなら私、晩ごはんに何か作ってく。おむすびと、何かおかずと。  そんなわけで、次の日はYOUの部屋でピクニックだった。小さなテーブルに、タッパに詰められた由真の手料理が並ぶ。 「こんなに作って…」 YOUは何だかテレて、笑うしかなかった。ふつうすぐにこんな展開にはさせない。こうなってもいいくらい、長く付き合った女の子もいない。みんなのセリフは決まっていた。バンドと私とどっちが大事なの、と。それがこの子は… 「多すぎた? 」 「いや…俺はありがたいけど、由真ちゃんのおこずかいとか大変だろうなって…」 「ううん、冷蔵庫にあったものばかりだから大丈夫。」 「でも、そのうちお母さんも気がつくよ。」 「ううん、うちの母親、仕事と遊びで忙しいから大丈夫。家の中のことは私の方が詳しいもの。もらいもののリンゴとかね、あの人に任せてたら全部腐っちゃう。」 あ、今度おすそわけで持ってくるねリンゴ、と何気なく言う由真に、 「お母さんの仕事って? 」 「ん? ずっとスナックで働いてる。でも、全然さえないの。不良だったから、おばあちゃんは私はそうならないようにっていろんなこと教えてくれたんだけど、中二の時に亡くなって…」 「じゃあ、料理の腕はおばあちゃん譲り? 」 「うん。そういえば、YOUさんて、どこの出身なの?」 「この町だよ。」 「えっ? じゃあ、実家は? 」 ここから車で十分ほどだと答えると、由真は驚いていた。 「どうして独立したの? 」 「ん? いろいろあってね…」 YOUが濁すと、由真の方から話題を変えてくれた。 「誘われたのが明日じゃなくて良かった。明日はバイトだったから。」  片付けを終えた彼女を送り出そうとドアを開けると、シヴァが階段を上がってきたところだった。 「ライヴのチラシできたから、早く見せようと思って…」 (<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)

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