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第3話の10◆三角関係?のマリアの君

シヴァは由真に目を転じると、 「もしかして、この前のコスプレの人? 」 と微笑みかけた。あわててお辞儀をする由真の肩を軽く叩きながらYOUは、 「由真ちゃん、ていうの。も、すっかり友達になっちゃって…今日なんか晩ゴハン作ってきてくれたの。」 「いいなあ、もう少し早く来ればよかった。」 シヴァは由真に暖かく接していたが、実は早く用件を切り出したがっているのをYOUは察し、由真を笑顔で送り出した。  部屋に入るなり、シヴァはCUEがローディー見習いをやっていたバンドの名をあげ、彼らがインディーズに戻ってくると言う。 「人手足りなくなったら頼むって、CUEはローディーの先輩から電話もらってるんだ。」 「何で戻るの? 」 「知らない。教えてもらえなかったって。」 「よりによってこんな時期に…」 「本人も困ってるよ。もうローディーでもないだろう、って。でもやっぱり顔は出さなきゃいけないだろうね。」   CUEと他のメンバーが息を潜めている間に、いつしか由真の訪れは当たり前のことになっていた。  YOUが遅番の時は、由真は学校から制服のまま直行してくる。兄弟というものを持たない彼は、最初は妹のように可愛いと思っていたが、たびたび狭い部屋で二人きりになり、なおかつ憧れの彼女の方が膠着状態となれば、彼女に触れてみたくなるのが人情というものだった。とはいうものの、言い抜けができるくらいのギリギリのスキンシップにとどめていた。由真の方は…やはり自分のことを思いつめているのだろう。迫ってこようとするのだが、そうすると「何やってるんだよ」とYOUの方がかわす。由真は混乱する。しかし、ずるいと自分でも思いながらも来るなとは言えなかった。  あれは何回目に遊びにきた時だったか、ライヴ直前にYOUは言ったのだ。 「お願いしてもいい? コスプレはやめてほしいんだ。」 意外にも由真は微笑んでうなずいた。それを見て、YOUはしまった、と思った。YOUは単に友達にコスプレをして欲しくなかっただけなのだが、違う意味に取ったのに違いなかった。  そんな矢先、例の彼女との間で急展開があったのだった。  いつものようにYOUが彼女の店へ買い物に行くと、彼女は珍しく不機嫌そうだった。が、気を取り直すようにレジを打ち、今度、ライヴはいつ? ときいてきたのだった。 「今度の土曜なんですけど、もしよかったらチケット、差し上げますよ。」 財布からすかさずチケットを二枚出して渡してしまった。お友達となら、ライヴハウスも怖くないでしょ、と。  しかし、ライヴ当日、そう広くはない客席に彼女の姿は現れなかった。YOUはがっかりした。バンドの人気にひびかないようにと楽屋にも来ず、打ち上げにも来ないで帰った由真に、電話してやるのも忘れたほどだった。   月曜日、昼食を買いに行く途中に化粧品店の前を通りかかると、彼女が走り出てきた。 「昨日はごめんなさい。一人で行ったんだけど、何だか浮いちゃって、恥ずかしいから帰ってきちゃったの。」 ああ、と、YOUは自然に笑みがこぼれた。 「でも、自販機のとこに貼ってあったポスターで、メークしてるあなたは見たわ。すごく綺麗で、びっくりしちゃった。」 思ったよりも話しやすい人だな、とYOUは一瞬思った。が、すぐに、いつもと違い、声を作って話しているような気がした。  しかし、彼女の次の言葉でそんなこともYOUは忘れてしまった。 「チケット代、悪かったから、何かごちそうするわ。よかったら、今日でもどう? バイトが終わるの何時? 」 (<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)

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