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第3話の11◆あやまちだらけのマリアの君
すっかり舞い上がったYOUが彼女と別れてまたコンビニを目指そうと振り返った時、ふと、由真と同じ制服が狭い小路に消えて行ったように思った。まさか、とYOUはその小路をのぞいた。右手の道に消える、モス・グリーンのタータンチェックのミニスカート。だが、YOUはすぐに見失った。仕方なくもと来た道を戻った。他にあの制服は歩いていない。由真は、学校を抜け出してわざわざ様子を見に来たのだろうか。後味が悪かった。
それなのに、その夜、どうしてあんなことができたのか。
酔った勢いのふりをして、YOUは彼女を誘った。彼女も酒の上のあやまちのふりをして、小僧の部屋についてきた。はしゃぎながらベッドに押し倒され、でも体を絡めあう前に、怖いくらい真剣なまなざしでYOUを見つめてきた。しかし、無我夢中でもYOUにはわかった。彼女の心がここにはないことに。
次の朝、彼女のゴールドの小さなピアスの左だけがなくなっていることに気づいたのはYOUの方だった。それを言うと、いいの、となげやりに彼女は答えた。気まずい終わりだった。
だから、というわけでもなかったが、とりあえず由真に電話をした。この前のことには触れなかった。彼女も一言も触れなかった。しかし、彼女には珍しく遊びに来たいというので仕方なく部屋に招いた。
やってきた学校帰りの由真はいつも通りを装っていたが、やはり、どこか違う。
「YOUさん、私、もうここのライヴハウスには行けないかもしれない。」
どうして、と尋ねる気もせずにいると、由真は仕方なく、
「あの子YOUさんの彼女じゃないの、って言われちゃって。」
由真が自分に似たシルバーのピアスをつけたのには、気づかないふりをした。YOUは部屋に呼んでおきながら話す気にはなれないで、マルボロばかり吸っていた。さすがの彼女も困っていたが、ふと、直にじゅうたんに座っていた足のつまさきから何かをつまみ上げた。
ゴールドのピアス。
YOUがシルバーしかつけないのは由真も知っている。
「YOUさん、これ…」
どう見ても女物のそれに、YOUの気持ちはかたまった。
「ああ、この前友達がここでなくしたヤツだ。届けてあげなきゃ。」
「友達、って、女の人でしょう…あの、この前立ち話してた人? 」
「そこまで君に言わなきゃいけない? 」
「…それじゃあ、私はYOUさんの何なの?」
「友達。妹のように可愛い、大切な友達。」
由真の目からみるみる涙があふれた。
「私は…YOUさんのこと、こんなに好きなのに…こんなに愛してるのに…」
「悪いけど、由真ちゃんのことは、妹としか思えない。それで、由真ちゃんが嫌だって思うなら、もう俺達はこうして…会うことはできないね。」
「どうして私じゃだめなの! どうして私じゃ彼女にはなれないの…」
由真はしゃくりあげて泣いた。どうしようもなく、YOUは煙草をくゆらせていた。
(<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)
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