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第3話の14◆マリアの君の苦い夜

 悪かった、ごめん…YOUには謝罪の言葉しかない。しかし、彼女を泣かせておくわけにもいかず、気持ちをひき立たせるように、 「由真、明日学校だろ? 今日はもう寝ろよ。明日は早くに制服に着替えに帰らなきゃ。」 すると彼女は必死で首を横に振る。 「明日は家まで送ってやるからさ…」 それでも彼女はうんとは言わなかった。 「とにかく、ベッドに入れよ。」 テーブルを片付けようとすると、由真の視線を痛いほど背中に感じた。 「YOUさん…何も変わってないのね…」 「何が? 」 「私、やっぱり、YOUさんの友達なんだ。」 ようやく意味がわかった。 「何言ってるんだよ。ボロボロのお前に、そんなことできないよ。」 すると、また、由真は泣き出した。 「…私…いやらしいね…」 また抱き締めてやるのがやっとだった。 「アイツと変わんない…アイツと同じ…」 「自分を責めるなよ…どうしたの? 」 由真が切れ切れに語ったのは、母親がまた違う男と付き合い始め、その男が家に押しかけてきたということだった。母親の方は、こんな時由真がいるのがうざったい様子…それでいたたまれなく なって飛び出してきたという。 「私なんて、いない方がいいから。」 同じことを自分も何度思っただろうとYOUは思った。 「あんなヤツに似てくるし。生きてても、仕方ないかなって。でも、どうなるんでも、最後に一度、YOUさんに会いたかった。」 「そんなことをお前に言わせるなんて、俺は最低だな。」 由真はびっくりした顔をした。 「俺はお前に出会って…安らぎを知ったのに…俺はお前に何も…」 「ううん。私、YOUさんのそばにいる時は幸せだもの。」 強い口調に、今度はYOUが驚く番だった。しかし、由真のひたむきな瞳は泣きはらしていても真実だった。 「由真、本当に? 」 彼女はゆっくりとうなずいた。 「俺、お前にさっきみたいな悲しいこと、二度と言わせないからな。」 抱き締めれば、もうキスするしかなかった。体をこわばらせている由真の唇は、ぎごちなかったが、甘かった。 「由真、本当に俺でいいのか? 」 うなずく由真の表情は真剣だった。YOUは厳粛な気持ちになり、由真の体を優しくベッドに横たえた。  手加減はするものの、初めての由真はもどかしく、さらには、普段偉そうなことを言っておきながら五歳も年下の女の子の初めての時をこんな汚い部屋で迎えさせてしまう自分のふがいなさにも腹が立って、イライラした。不安げに自分の顔をのぞき込む由真にそれが伝わっているのだろうかと心配になって、YOUはあわてて口走る。好きだ、もう二度と離れられない、と。頭のどこ かでは自分が求めているのはこういう関係ではないと思っている。しかし、由真から得られる安らぎを失いたくないとすればこうするしかなかった。  すべてが終わると、何だかしらけた雰囲気をYOUは感じずにはいられなかった。こういう時こそ男の自分がリードしなければいけないのだろうと困っていると、電話のベルが鳴った。YOU はメッセージの録音が始まる前に急いで受話器を取った。 ―もしもしYOU、起きてた? よかった。俺、すごいことしちゃったんだ… CUEだった。 ―俺、麗華さんに俺らのビデオ手渡したんだ。 一瞬、理解できなかった。聞き返した。 (<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)

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