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第3話の15◆バンドは上々のマリアの君

―お前達に言えなかったんだけど、今日のライヴ、昔対バンだったよしみで、ROSEの麗華さんがマネージャーさんと来てたんだよ。で、あんまり楽屋はいい雰囲気じゃなかったんだけど、帰り、一瞬俺が機材車の横で一人になった時、突然マネージャーさんが話しかけてきてさ。「もしかして、MOONのベース? 」って言うわけ。ハイ、って答えたら、麗華さんが出てきて、「この人が似てるって言い張るけどまさかと思った」って。まずマネージャーさんがこの前のデモテープを気に入って、麗華さんに聞かせたんだって。で、麗華さんも気に入ったっていうから、「よかったら、見て下さい」って、先輩にやろうと思って持ってたこの前のライヴのビデオ、冗談ぽく差し出したんだよ。麗華さん、笑いながらそうかそうかって受けとってくれた… 信じられない話だった。ギルティー所属のバンドは大抵が麗華に拾われたという噂だったからだ。さすがのYOUも言葉を失った。 ―…いや、もちろん、その後そのビデオがどうなるかはわ。かんないけど。そのまま、麗華さんの家のゴミ箱に直行かもしれないし。 ―…ああ、そうかもしれない。でも、もしかしたら… ―そう、もしかするかもしれないと思って。誰かに見られたかもしれないけど、もうそんなこといいや、って思ったんだ。 ―CUE、お前のやったこと、絶対間違ってないよ。 背後で、シーツの擦れあう音を感じる。受話器の向こうのCUEはようやく安心したような声を出す。 ―…YOUにそう言われてほっとしたよ。  これでギルティーにいけるかも、などという軽口を叩く気分ではなかった。  電話を終えると心配そうな顔をしている由真を抱き締め、優しく説明してやった。 「…今日はいいことばかり起こる。お前は戻ってくるし、麗華さんにビデオは届くし。」 由真は恥じらいながら、そっとしがみついてきた。YOUの中にいとしい、という気持ちがようやくしみじみとわいてきたのだった。 とはいうものの、それ以来、ギルティーからは何の連絡もなかった。  次のライヴまでの一週間、YOUは暇さえあれば…手近な由真を抱いていた。いとしさ、守りたいと思う気持ち、そんなものがある反面、まだ子供くささの抜け切らぬ体を押し開く時、残酷な喜びとうしろめたさを感じるのが、なんともよかったのだ。透き通るような白い膚、細い体。彼女は学校帰りなので、制服を、よく脱がせていた。  幼いうちに父と別れ、おぼろげにしかわからず憧れる普通の家庭、こんな運命、そういったものに対するいらだちを、彼女の幼い体にうずめているのだとは自分でもわかっていた。いろいろなことを経て選び取った恋人であるにもかかわらず、そのくらいしか、この少女には価値がないような気もした。黙っていても自分を楽しませてくれるお姉サマなんて、その気になればいくらでもいた…そのくせ、次の瞬間には、抵抗もせず必死で耐えている由真が痛々しくてたまらなくなるのだった。  またその一方で、抱いた後はこんなことをしている場合なのか、と考えてしまう。彼女を愛していないわけではないのに、空しさに襲われるようになった頃、メイクラブの後だというのに、彼女は泣きそうな顔で黙っている。自分の気持ちがわかるのだろうと思うと、いっそうやりきれなくなるのだった。  しかし、そんなすさんだ気持ちのわりにはバンドのコンディションは上々で、他のメンバーのパワー、まとまっていく新曲の出来の良さにYOUは引っ張られていた。そのせいか都内の老舗でのイベントはメンバーも満足のいく、そして、自分達のコスプレだけでなく対バンの客も巻き込む迫力だった。 (<YOU>は<マリア>になる前のステージネームです)

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