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第4話の6◆皇帝のベッドルームにて
―…せっかくの武道館、大事にしろ、ってニッキーさんは言ってくれたよ…
オフの最後の日、次の日のリハーサルのことで電話をくれたタカネだったが、話はつい前日の飲み会のことになってしまった。
―次のツアーのファイナル、千三百席の会場にビビってる場合じゃないんだなあ。
受話器を置くと、また、ベルが鳴った。
―もしもし…
マリアは凍りついた。ZENNだった。
―マリア、これから僕のうちに来ないか? 昨日は全然話もできなかったし…
ニッキーとのはしゃぎぶりが嘘のような、あの夜と同じ…冷ややかな口調に、どうしてかマリアは傷ついていた。
―どうした? 都合が悪いのか?
―いいえ。今からうかがいます。
傷ついても、行くしかない。それは彼がギルティー・ミュージック・グループの総帥だから。
そう自分に言い聞かせると、そればかりじゃないだろうともう一人の自分が叫ぼうとする。それを抑え込む。
そんな葛藤も、虚しい現実の前には吹き飛ぶばかりだった。
飛んで行ったマリアは玄関のホールに足を踏み入れた途端、白のコットンのセーターにはにかんだような微笑みを浮かべたZENNに、白い壁に押しつけられて口づけられていた。
今日はあの、女性じみたメークもしていなければ、ドレスも着ていなかった。
それでもZENNの手はTシャツをたくしあげ、平らな自分の胸をまさぐってくる。
「マリア、この続き…ここでするのと、ベッドでするのとどっちがいい? 」
どっちにしても続けなければならないのだ。
「ZENNさんは…? 」
「俺か? 俺は男とヤれるならどっちでもいい。」
ZENN様のお言葉とは思えぬなまなましさだった。
それも、お前と、ではなく、気に入った男なら誰でもいいのだった。
マリアはどうしてかがっかりしていた。
が、その間にもZENNは勝手に、ロングだったらベッドがいいな、と結論を出し、マリアの肩を掴んでベッドルームへと誘った。
それでもひとたびベッドに入ってしまえば、マリアは一生懸命サービスをする。
そして、また、この前と同じように、堅い戒めをこらえきれずに破るように、ラストを迎えてしまう。
その十数秒ほどはきっと、自然に向かって、というか神―そんなものがいればの話だが―の前で、男色者のレッテルを貼られることも、それがZENNのためであればかまわないと思えている。
薄明りの中で、マルボロの匂いが儀式の終りを告げた。
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