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第4章の12(←マリアの君とZENNとの距離)

 七月下旬から九月中旬の約二ヵ月間、ちょうど高校生の夏休み期間、全国二十ヵ所以上を車でまわるというもので、中盤には野外大音楽堂のイベント、一六〇〇ほどのキャパのイベントが予定されていた。 体力的にはつらかったが、そんなことを忘れるほど、観客が目に見えて増えて行くのが嬉しかった。  夏休みを利用して追っかけをしているファンもいるらしく、ツアーが進むにつれ、客席には黒服とコスプレが多くなっていた。 「俺は数を競いたいわけじゃない。ただ、ロックの花を日本中に咲かせたいだけなんだ。」 ZENNの言葉が実感として迫ってくる。 (メジャー・デビューすれば…) 目の前の客席のことだけではなく、彼のように、帝国の全体も、日本のロック界のすべてがはっきりと見えてくるのだろうか。  マリアの隣では、ようやくできたMOONの事務所、「ムーン・オフィス」の現場マネージャー村垣がこれまた連日の疲れでうとうとしている。  チーフ・マネージャーはZENNと仁に選ばれた社長の永山が兼任しており、東京で、MOONのメジャー・デビューの準備に追われていた。  レコード会社はもちろんグランデだが、事務所も先輩達と同じようにギルティーの系列で、これで文字通り、ギルティー・ミュージック・グループで一人前になったといえるのだった…  そして、その頂点にZENNはいる。

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