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第4章の15(←マリアの君の危険なごほうび)

ファイナルのゲネプロもあったし、事務所でミーティングもある。 そんな時にまた、ZENNに呼び出されていた。 話したいことは山のようにある気もし、しかし、そんなこと…ZENN自身も経験したことだろうと思うと、マリアは言葉を失ってしまう。  しかし、ドアを開けてくれたZENNは、まじまじと自分を見つめてくる。 「マリア…やせたな…」 「そうですか? 」 愚痴めいたことは言いたくなかった。が、ZENNの方は、 「いや、年々競争は激しくなって、確かに新人は大変になってきてるんだ。 でも、ファイナルもソールドアウトしてるし、CDの売り上げも順調だし… 今のところ、不満はないよ。まあ、もっと、もっととは言うけどね。」 そう言うZENN自身も、この日は疲れていたようだった。 初めて、白で統一した広いリビングに通してくれ、 ドン・ペリのグラスを傾けて、ツアー中の話を面白そうに聞いてくれたのだが、 酒が進むと、気力だけで起きているといった感じに見えた。 「あの…今日はもうそろそろ失礼します。ZENNさんもお疲れのようですし…」 するとZENNは背すじを伸ばし、 「冷たいことを言うな。何のために俺がここに呼んだと思うんだ? 」 そして、切れ長のまなじりを下げて微笑み、 「よい子のお前にごほうびをあげようと思うからじゃないか…」  醜関係。そんな言葉が久し振りにマリアの脳裏をよぎった。

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