53 / 100
第4章の15(←マリアの君の危険なごほうび)
ファイナルのゲネプロもあったし、事務所でミーティングもある。
そんな時にまた、ZENNに呼び出されていた。
話したいことは山のようにある気もし、しかし、そんなこと…ZENN自身も経験したことだろうと思うと、マリアは言葉を失ってしまう。
しかし、ドアを開けてくれたZENNは、まじまじと自分を見つめてくる。
「マリア…やせたな…」
「そうですか? 」
愚痴めいたことは言いたくなかった。が、ZENNの方は、
「いや、年々競争は激しくなって、確かに新人は大変になってきてるんだ。
でも、ファイナルもソールドアウトしてるし、CDの売り上げも順調だし…
今のところ、不満はないよ。まあ、もっと、もっととは言うけどね。」
そう言うZENN自身も、この日は疲れていたようだった。
初めて、白で統一した広いリビングに通してくれ、
ドン・ペリのグラスを傾けて、ツアー中の話を面白そうに聞いてくれたのだが、
酒が進むと、気力だけで起きているといった感じに見えた。
「あの…今日はもうそろそろ失礼します。ZENNさんもお疲れのようですし…」
するとZENNは背すじを伸ばし、
「冷たいことを言うな。何のために俺がここに呼んだと思うんだ? 」
そして、切れ長のまなじりを下げて微笑み、
「よい子のお前にごほうびをあげようと思うからじゃないか…」
醜関係。そんな言葉が久し振りにマリアの脳裏をよぎった。
ともだちにシェアしよう!