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第6章の4←マリアの君の…嘘…

 由真の卒業まではまだ間があったが、インディーズでの最後のツアーの前にマリアは物件を探し、すぐに引っ越した。 「ZENNさんや麗華さんが俺達をいろんな人に引き合わせるために飲み会に連れて行ってくれるから、夜も俺はほとんど帰ってこない。それでもいいか。」 疑うことなく由真はうなずいた。 それどころか、マリアには少ししか会えなくとも、卒業式までの週末は、呼ばれなくてもこの部屋に「帰ってきて」いいと言われたことで由真はすっかり満足していた。 「マリアが、一生懸命稼いだお金で、こんな素敵な部屋に私が…何だか悪いみたい。」  二人の新居に初めて泊まった夜、ベッドの中で由真はしみじみとつぶやいた。ZENNのことが思い浮かび、マリアはすごく後ろめたかったが、 「何言ってるんだよ。いつかはもっともっと広い部屋に、二人で住むんだよ。」 とわざとにぶっきらぼうに、口は勝手に動いていた。 居間が由真のテリトリーで、もう一つの部屋はほとんどマリア専用という了解もすぐにできた。 自分の使い勝手のいいように、一人でキッチンまわりを整えていく由真の姿は、マリアをほのぼのとした気持ちにさせた。  そして、卒業式のその 日のうちに、由真はわずかな荷物といっしょにマリアの車で、家出同然にその部屋に転がり込んできたのだった。 マリアは由真の母に、いちおう挨拶はしようかと思ったが、結婚する決心はまだついてはいないし、由真にはいいと言われたので、無断で彼女を連れ出したのだった。

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