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第6章の5←マリアの君の、奇跡。

 ツアーの初日、三〇〇〇席のホールでのライヴの日は、由真の笑顔に送られて楽屋に向かっていた。このホールからステップアップというと、もう後は武道館しかない。 一日も早くやりたい。 マリアは、そしてMOONは、まさに順風満帆といったところだった。  その二ヶ月後、帝国の新人はデビューアルバムをチャートの五位に送り込んだ。奇跡のバンドの誕生だった。    アルバムリリースの直前から、各雑誌でのリリース告知。そして、カラーの見開きの広告。ポスター。 そんなものを見た者が圧倒されたのは、黒の華麗な衣装に身を包み、それぞれ黒・赤・金の髪をふわふわに立て、真紅や紫のルージュに妖しく彩られたメンバー五人のルックスの良さだった。  大きくて深い瞳が印象的なMIKU。  ハリウッドの女優よりもスーパーモデルよりもゴージャスな美貌のマリア。  狂気を秘めた美少女といったおもむきのシヴァ。     切れ長の瞳と朱の口紅の唇が、日本的な美しさのCUE。  ZENN以上にパワフルなドラムを叩いているくせに、そんな時に見せるせつなげな表情がたまらないと評判のタカネ。  曲も、メロディー重視のわかりやすいロック。 音はバ イオリンの音色が根底にあるのか、透明感を持ちながらも、脆弱になることなく、ロックらしいパワーを保っている。 そして、演奏力の方は若いバンドの中ではピカ一だった。 パフォーマンス的なステージングは毎回確実に客席を巻き込む。  このすべてが怒濤のようにあふれるライヴとなれば、多くの少女達が熱狂的なファンになっていくのも当然だったが…その熱狂ぶりは独特なものがあった。 それは仁を初め、スタッフ達が指摘する通り、ROSEの時とよく似ていた。 他のバンドにはほとんどいなかったのに、ROSEのようにビジュアルに特徴があるせいかコスプレチームがあっという間に増え、追っかけも恐ろしいほど多かった…    もしかするとROSEのファンの次の世代は、MOONで同じジャパニーズ・ドリームを見ようとし始めたのかもしれなかった。

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