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第6章の16←マリアの君とZENNの苦悩
車がマンションに近付くと、窓の外に何か見つけたらしく、
ZENNはマリアがこれまで聞いたこともないような、大きなため息をついた。
そして、ヒステリックに叫んだ。
「またか! どうしてここがわかるんだ? 」
何ごとかわからず、しかし聞けもせず、マリアが困っていると、ボディーガードの三井は、
「わかりません。出かける時は確かに誰もいなかったのに…」
マリアには見えなかったが、どうやら…こんな時間にこの辺りを歩いているはずのない女性のロックファン、どう見てもZENNの追っかけとしか思えない人間がうろうろしているらしいのである。
それでも、部屋に帰るとZENNは普段の冷静さで、アルバムのリリース延期を発表して以来、ずっとこうなのだと説明してくれた。
もちろん、延期の理由はマリアからは訊けるものではなかった。
だが…情事の後…
マリアは満たされた眠りからZENNの声にたたき起こされた。
電話? 誰と?…意識がはっきりしてくると嫉妬。
しかし、それは電話機を床に叩きつける音で破られた。
「いい加減にしてくれ! 」
「…ZENNさん? 」
マリアはあわてて起き上がると、ベッドに倒れ込もうとしたZENNを抱きとめた。
両手で顔を覆ったまま、彼はマリアの手を振りほどく元気もない。
「アナスタシアから…」
「アナスタシアの誰から? 」
「違うんだマリア。アナスタシアという名を名乗る女なんだ。
ここ何日、俺が眠ったのを見計らったようにこうやって電話してくる…」
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