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第6章の17←マリアの君の愛人疑惑
「アナスタシアのファンとか? 」
「俺に恨みがあるならそうかもな。
でも、最初、なんだかわからずに話を聞いた時は、早くアルバムを出してくれの一点張りだったんだ。
ライヴでやってる『カタストロフィ』っていう曲がある。
あれは自分のことを歌った歌だから、早くアルバムに入れてくれなきゃ困るっていうんだ。」
「悲劇の皇女アナスタシアのつもり…? 」
ZENNがうなずくと、また電話のベルは鳴った。俺が出ます、と、マリアは鳴っている子機を取り上げた。
―…もしもし
女の声は明らかに面食らっていた。きつい口調でマリアは言ってやった。
―どちらさまですか?
―そちらは立花さんのお宅ではありませんか?
丁寧な言葉づかいは付け焼き刃にしか聞こえなかった。
しかし、もしかすると、ZENNの知り合いかもしれない。
マリアは同じことを繰り返さなくてはいけなかった。
―どちらさまですか?
電話は切れた。
「マリア、ありがとう…」
すると、またベルは鳴った。
あたたかな照明すらも凍り付くかのような緊張が二人に走った。
仕方なく、マリアが出た。
―あんた、マリアでしょう。ZENNと寝て、デビューさせてもらったってほんとなのね。
マリアは絶句した。
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