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第6章の22←マリアの君の嫌な客席。
またツアーは始まったが、地方のぎゅうぎゅう詰めのライヴハウスの客席も油断ならなかった。
ライヴが始まる前の緊張感が充満した客席では、その緊張に堪えかねるようにファンはメンバーの名を叫ぶ。
それに紛れて、「マリア、ZENNちゃんと何してたのっ!」という叫びがひときわ大きく響いた。
それは直接マリアの耳には入らなかったが、ここまで噂が広がっているのかとスタッフを悩ませ、そのうちにマリアも知るところになった。
それまでならば単なる噂にしか過ぎず、マリアもスタッフも黙殺していればよかったのだが、ZENNの方がおさまらなかった。
思い余って、ZENNが見張られていることを麗華は仁に打ち明け、それが彼に伝わったのだった。
さすがの仁もあぜんとした、兄のとんでもない醜聞、追っかけが見張っていること…言いづらいことをZENNに言うのはいつも仁の役目だった。
「お前までマリアに会うなって言うのか。追っかけに見張られて、いやな思いばかりして、人付き合いにまで制約つけられるのか! 」
「兄さん…」
「そんな噂を立てる方が悪いだろう。マリアをごちゃごちゃ言う方が悪いだろう。どうしてこっちが気を使わなければいけないんだ?」
アルバムは無期延期になっているとはいえ、恒例の年末の東京ドームの準備も本格化する頃だった。
副社長の仁は、兄ではなく、目の前のアーティスト、ZENNの精神面に気を配る必要を感じ、前言を撤回した。
「そうだね、兄さん、ミツグのバンドも危ないし、レイジー・スレイジーもメンバーチェンジするとかしないとかごたついてるし…MOONをしっかり指導しておいた方がいいかもしれないね。」
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