6 / 13

第5話(2) パンケーキ物語(嘘)

パンケーキ。あれ今度食べよう……そんなことを考えながら、僕はお茶するには些かお高い金額を全奢りで支払う。 というか、皆遠慮しなさすぎだろ。散々食べて飲んでしてさぁ。 地方公務員ってこう見えて案外懐事情シビアなんだからね。若いから仕方ないのかもしれないけど。 そうそう。犬養君だけがレジで財布出てきたけど、丁重に遠慮した。だって歳下でしかも未成年に出させるのもなぁ。 「太郎」 「ん? ああ、いいってば。……そうだな『次は』奢ってよ」 何気なくそう言うと、彼の目がカッと見開かれる。 え、なに!? 今おかしい事言ったっけ、と不安になるが犬養君は特に怒った様子もなく小さな声で『そうだな』と呟き続けた。 「『次は』あのパンケーキ、食ってみてぇ……」 「君もかい? ね、僕も少し気になっちゃったよ。……でも少しボリュームありそうだし、また半分こしよっか?」 「おぅ、良いぜ」 なんだか嬉しそうな気がする。 言っても彼はまだ19歳、可愛いなぁ。所謂母性本能くすぐられるタイプなのかな。 ……これ、モテるだろうなぁ。あ、悔しくないよ。うん。悔しくない。なんだか胸がほんの少しモヤモヤするだけ。 「あ。そう言えば。その『借金のツテ』ってどこの人だい?」 そうだ。一応聞いておかなきゃ。ここでは僕が大人として彼らの事を心配するのは当たり前だよね。 今日出会ったばかりだとしても、それでも縁があったわけだし。 「もしかしてそれってあの爺達か?」 苦々しい顔で横槍を入れたのは猿渡だ。 ちなみに今、メイク直しで手洗いに行っている雉野さん待ち。 『対して変わんねーよ』と、のたまわった猿渡が引っぱたかれてたな。本当にアホなんじゃないかな、彼は。 「そうだぜ」 「2人の知り合いかい?」 無表情で頷いた犬養君にやはり嫌そうな猿渡。訊ねれば共に気まずそうだ。 「あー。オレと憲一と、あと姫華の知り合いだ」 「……なによ。爺達に頼むのぉ?」 手洗いから帰ってきた雉野さんが言葉を挟む。こちらは心做しか口角が上がって、面白いものを見たような顔をしている。 「ま、仕方ねーなァ。行くか」 「猿渡、アンタの自業自得だからね?」 「だってよォ、姫華だって知ってるだろ……あそこ行くのダルいンだもん」 「もん、って……キモいわ」 猿渡と雉野さんがそんなやり取りしながら歩き出す。やっぱり肩を寄せて手を繋ごうとする犬養君をそれとなく避けつつ、僕は慌てて呼び止めた。 「ちょっ、ちょっと待ってよ! どこ行くんだ」 「決まってるだろー。その爺ン達とこだよ。確かにオレに金貸してくれそうなのアイツらしかいねーわ」 「だからそれがどこの誰かって……」 「ン? ああ、それね。関係はまぁ、後で説明するぜ。とりあえず、この近くだから」 ……この近く? それってまさか。 「鬼ヶ島、行きましょっか。四人で」 雉野さんの笑みとわずかな緊張感を含んだ声。 猿渡の溜息に、犬養君はそれでも距離が近くて。 「お。コレってダブルデートじゃね?」 というアホ猿渡の言葉に、僕と雉野さんがそれぞれ左右の足を思い切り踏みつける。 「ゥギャアアア!」 彼は締めあげられたサルのような悲鳴を上げた。

ともだちにシェアしよう!