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第7話(2) アイムホーム?
その後もやはり棒切れや鉈、スコップ等を手に襲いかかってくる少年少女を雉野さんがそこらの枝や素手による手刀で打ち据える。
なるべく怪我をさせないよう、手加減しているのが見て取れるほどの鮮やかさだ。
「うっひょー、姫華強くなったンじゃねーの?」
相変わらずの軽口に、呆れたように猿渡を軽く睨みつけた彼女。僕には一言だけ『通信教育で護身術ならってんのよ』と微笑んだ。
……通信教育、凄い。いやいや通信教育で護身術ってなんだそれ。
自らも振り上げて下ろされる鍬を避けながら、自分にはそんな戦い方は不可能だと舌を巻く。
「大丈夫か?」
鍬を持ってた少年の腹に拳を叩き込んで地面に沈めた犬養君が、僕にそっと囁いた。
「俺の後ろにいろ。守ってやる」
「犬養君……ありがと、でも」
背後から羽交い締めにしようと飛び掛って来た緑色の身体を視界に捕える。
囲い込まれる瞬間、軸足を踏みしめ歯を食いしばった。
「っ!!」
瞬発的に構えた腕を後ろ側へ振り切るッ!
……見舞った肘鉄が背後に聳える緑の胸元に向けて叩き付け、そのまま吹っ飛ばした。
「年長者も、少しは役に立たなきゃね」
「……」
……あれ? 犬養君、少し引いてる?
「ウホッ、太郎ちゃん。やるじゃーん」
「猿渡。君の『太郎ちゃん』呼びは虫唾が走るな」
「ちょ……お前なァ! 辛辣すぎンだろッ、オレのメンタル抉られるわッ!」
「抉って別のモン詰めてあげようか」
「怖ぇよォ、このモモジリ怖すぎるゥッ」
「だからモモジリっていうなっ!」
猿渡とそんなバカみたいな会話交わしながらも、僕達の目は多勢に無勢のこの状況を見据えていた。
しかし立て続けに仲間数人地面に伏せた事で、鬼達の士気もだだ下がりらしい。ザワザワとしながらも僕達を囲んだ輪は徐々に広がっていく。
「別にそっちから襲ってこないなら何もしないわ。……別に私達、そんな事望んでいないもの」
「そうだぜェ。な、頼むから抵抗せずに爺達の所に行かせてくれよ」
猿渡と雉野さんの言葉に、彼らは顔を見合わせる。
「騙サレルナ! コイツ達ハ、人間、ダ!」
「ズルくテ、悪イ、ヤツだゾ!」
「成敗シナケレバ! 」
数人の少年少女の荒々しい言葉が響き、彼女が小さく舌打ちをした。
彼らは心底人間を憎み恐れているのか。彼らに心痛める瞬間、その矛盾に気がついて心暗くなる。
僕達人間が、そもそも彼らを駆逐しようとしているんだ。今の彼らと同じ『成敗』やら『討伐』という言葉を使って。
これが憎しみ合うことか。
「鬼、鬼って言うけれど……鬼って何なのかしら」
ポツリと雉野さんが呟いた。
僕は俯き、唇をかみ締めたその時。
―――突如として彼らは色めき立ち、ざわめき始めた。
人々を割っていくように、2人の人影が姿を表したのだ。
「爺」
犬養君が低く呟く。
……この人が。恐らく、2人のうちの一人が彼らの言う『爺』という人物だ。
確かに小さい身体は枯れ木のようだし、その顔も年寄りのそれだろう。
2人とも柔和に微笑み、その豊かな白髪頭を優しく降って頷いている。
「そんな……なんで2人が、ここに……」
僕は混乱のさなか声を振り絞って問いかけた。
彼らは僕の1番よく知る人達。僕のたった唯一かけがえのない。
「じーちゃん、ばーちゃん……?」
僕の養父母だったからだ。
「おかえり、太郎」
じーちゃんはそう言って笑った。
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