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三.
いっぽう、宴の席に取り残されたお供三人。
女たちに秋波を送られながらも、話題は当然主人のことばかりだ。
「お酒飲んでちょっとふらついてるところもかわいかったなあ、あのまま俺の腕の中に倒れこんでくれれば良かったのにい」
「俺は主人が心配です、お顔が赤くて色っぽくて……襲われても仕方がないくらいつややかでした……」
「あなたたち、誰かに頼んで水をいただいてきてください。主人の声が少しかすれていたので枕元に水をおいて差し上げるのが良いでしょう」
「俺らがそれを取りに行ってるあいだに、あんたは桃太郎の隣独占する気でしょお? 絶対認めなあい」
彼ら三人が桃太郎に向ける気持ちは、忠誠ではなく恋情だ。隙あらば桃太郎に近づこうとする恋敵たちを牽制するため常に臨戦状態なのだが、桃太郎にはその気持ちがまるで伝わっていない。
桃太郎は自分の魅力に鈍感だ。容貌は下の中止まりだが、困っている人がいれば手を差しのばさずにはいられないその心映えが何より彼らを惹きつける。お供三人は、自分以外の二人も桃太郎の内面に惹かれていることを知っていた。だからこそ、より相手を警戒しているのだ。
(桃太郎の魅力を知るのは自分だけでいい)
それが三人の共通認識であり、自分だけの桃太郎にすることを日々狙っている。しかし、鬼退治という大きな目的を果たすまでは、各々桃太郎に気持ちを伝えるのは控えていた。
「あっ、そこの駄犬。どこに行くつもりですか?」
猿渡と雉沼が言い争っているさなか、いつのまにか背を向けていた犬飼。猿渡が呼び止めると、犬飼は使命に燃えた目を向けた。
「……主人の寝所です。添い寝は禁止されましたが、警護は禁じられていないので!」
「なるほど」
「確かにねえ」
決戦は明日。
鬼をすべて討ち取ったあとが本当の勝負だ。
だからこそ、鬼退治は必ず果たさなくてはいけない。
決意も新たに、彼ら三人はその日の夜を過ごした。
翌日。桃太郎が起きると、お供三人に顔を覗き込まれていた。
「えっ、な、何?!」
美形三人の顔が間近に迫っている。あまりの迫力に桃太郎は驚きの声をあげた。
「おはようございます」
「お、お、おはよう……っびっくりしたっていうか、今日はみんなに添い寝禁止しただろ?!」
「添い寝はしてないよお、座って警護してたもん」
「はぁ?!」
とんだ屁理屈だ。言い返そうと思ったが、どうせ言いくるめられるのがおちだと諦める。
三人に着替えを手伝ってもらったので、出立の準備はすぐに終わった。
盛大に見送ってもらいつつ、桃太郎一行は村を後にした。
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