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四.

その後、激流の大河を渡り、舟を破損させながらもなんとかたどり着いた鬼ヶ島。そこかしこに時期外れの桃が成っていて、かぐわしい香りがあたりに漂っている。通常の大きさから人の大きさくらいまで様々成っているのは人里では見られない光景で、どことなく不気味に見えた。 いざ行かんと刀に手をかけるお供三人を、桃太郎が制止する。 「大丈夫だから、みんな、手荒なことはしないで」 彼の言う通り、上陸してもあたりは静かなままだった。しかし、木々のあいだからいつ鬼が襲ってくるかわからない。桃太郎は道中も極力鬼を殺さず穏便にすませてきたが、ここは敵地だ。いざとなれば主人に背いてでも彼の命を守ろうと、お供三人は胸のうちで決意する。 上陸してしばらく歩くと、城下町よろしく、関所が見えた。白い壁がぐるりと四方を囲み、門の前には大柄な男たちが立っている。頭には二本の角が生えていた。鬼だ。 そこに走り寄った桃太郎は、開口一番大きな声を上げた。 「頼もう!」 その場はにわかに騒然となった。 「わっ! 桃太郎だ! 桃太郎が来たぞ!」 「門を開けろ!」 「連れて行け!」 桃太郎の姿をみとめた鬼たちによって、あれよあれよと一行が連れていかれたのは、島の中心に建つ豪奢な城だった。広い畳敷きの一室では、大柄な若い男の鬼が色とりどりの打掛をまとった美女たちに囲まれ、酌をさせていた。 荒削りな風貌、直垂を乱雑に着崩し、ざっくばらんに切られた髪は後ろで適当に結っている。粗野な見た目だが、目を奪われるほどに美しく、色気が溢れている。にっと笑えば、鬼特有の犬歯がのぞいた。 「久しいな、桃太郎」 「うん、久しぶり! 鬼一!」 (ど、どういうことだ?!) 主の親しげないらえに驚きを隠せないお供三人。問うような視線を投げれば、桃太郎は満面の笑みを浮かべた。 「鬼一は幼馴染なんだ」 「「「は?!」」」 初耳だった。驚きを声に出すと、鬼一と呼ばれた鬼が酒をあおりながら豪快に笑う。 「なんだ、おまえが連れてる男どもは、俺たちの関係を知らんのか」  その言葉に嘲笑と優越感を感じとり、お供三人顔をゆがめる。そのなかで、動いたのは雉沼だった。のしっと桃太郎の背中にかぶさり、鬼一に見せつけるよう顔を近づける。 「あいつとどういう関係なのお?」 「またおまえは……っ、重いからのしかからないでって言ってるだろ」 「いいから答えて」  雉沼の苛立ちが滲んだ声音に、桃太郎は驚きながらも「だから、幼馴染だってば」と返事した。 「昔の男ではないんだね?」  念押しに戸惑う桃太郎。 「何、昔の男って……? 僕は去年までここで暮らしていたから、鬼一とは昔からの友達だけど……?」 「ふうん」  とりあえず、鬼一とは何もなさそうだ。しかし、わからないことだらけで不信感が募る。  それを言葉にしたのは猿渡だった。 「主は私たちを謀っていたのですか?」

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