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五.

「えっ?」  今度は桃太郎が目をむく番だった。雉沼を背負っていることも忘れ、勢いよく振り返る。供人たちを見つめるその瞳は、真ん丸に見開かれていた。 「どうしてそうなるの?!」 「俺は、主が鬼の味方でもあなたについていきます!」  焦ったように声をあげたのは犬飼。  すると鬼一がふたたび口を開いた。 「桃太郎は鬼の味方というわけではない」  全員が鬼一のほうを見やる。彼は目を細めた。 「桃太郎は俺の所有物だからな。ものに敵味方の区別はないだろう?」  鬼一を囲む女たち――人間も、鬼もいる――が、さざめくように笑い声をあげて同意する。 「ええ、ええ。そうですわ」 「桃太郎は、鬼一様の一等お気に入りのものですものね」 「なあ、桃太郎。ずいぶん遅い帰還だったな」  桃太郎に手を差し伸べる鬼一と桃太郎の間に猿渡が立つ。 「……行かないでください」  鋭い目つきで桃太郎を睨んでいるものの、その声には覇気がなく、不安に満ちていた。  猿渡も、雉沼も、そして犬飼も、皆、不安なのだ。  それに気がついた桃太郎は、お供たちを順繰りに見つめて「ごめん」と謝る。 「僕、三人に心配かけてる? ちゃんと話しておけば良かったね」  そして語られたのは、桃太郎の過去。彼は十の頃両親に捨てられた。それを拾ったのが鬼一だという。食われるかと脅えていたが、鬼一の気まぐれで保護された。鬼一は先代頭領の一人息子であり、一昨年跡目を継いだのだが、それ以前より鬼たちのなかですでに頭角を現していた。その彼が連れ帰り自分のものだと主張したおかげで、桃太郎は誰に食われることもなく、衣食住を保障され育てられた。  しかし、一年前、大きな桃を舟に見立てて遊んでいた際、川の激流に呑まれて流されてしまった。  川の流れは早く激しく、何日も何日も飲まず食わずのまま流された。何度か転覆しそうにもなり、憔悴しきっていた。そうして気を失っていたとある日、おばあさんに拾われたのだ。  老夫婦には子どもがおらず、日々の生活にも苦労していた。そこで桃太郎は、助けてくれた老夫婦に恩を返しながら第二の生を生きると決めたのだった。 「だから僕はもう鬼ヶ島に帰るつもりはなかったんだ。本当はその旨を鬼一たちにちゃんと伝えたかったんだけど、鬼ヶ島がどこにあるかもわからなかったし……便りを出すすべもなかったし……――鬼一、勝手にいなくなってごめんね」 「では、あの鬼のもとには行かないのですね」  念押しする猿渡にうなずく桃太郎。 「うん。僕は鬼一を負かしたらまたおじいさんたちのいる村に帰るよ。君たちと一緒に」  すると、鬼一が首をかしげた。 「俺を負かすと? いったいなぜ?」  その口調は、親が子どものわがままを聞くそれによく似ていた。そして、続いた言葉は子どもを諭すそれ。 「この世は弱肉強食。俺たち鬼は強い。だから弱い人間から金銀財宝、命、食べ物、何を奪ってもいい」 「違うよ!」  だんっと、桃太郎が一歩踏み出した。床が震える。 「僕は怒ってるんだ。鬼一、君はこれまでそんなことしなかったじゃないか! どうして急にそんなふうに言うんだよ……! もう、人間を苦しめるのは辞めてほしい……!」  桃太郎は怒っているのに泣きそうだった。供人たちにはそれがわかる。しかし、鬼はにやりと笑った。

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