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第4話

 ぜいぜいと肩で息をしながら、リチャードは庁舎を出る。階段を駆け下りたぐらいで息が上がるなんて、最近運動不足だな、と彼は内心苦笑する。  クラレンス・オークションハウスまではそう遠くなかったが、リチャードはなるべく早く着きたかったので、ブラックキャブを拾うことにした。  丁度彼が通りに目をやると、空車が一台やって来るのが見える。 「タクシー!」  リチャードは腕を地面と平行に横に上げてブラックキャブを呼び止め、歩道に面する助手席側の窓から覗き込むと、運転手に行き先を告げ乗せて貰えるか聞いてみる。 「クラレンス・オークションハウスまで頼みたいんだが」 「いいですよ、乗って下さい」  リチャードはサーシャが追って来ているんじゃないか、と不安になって庁舎の入り口を見るが、幸いなことに誰も出てくる気配はなかった。キャブに乗り込むと、すぐに走り出す。  リチャードはそわそわしながら、ジャケットの袖を上げ腕時計の時間を確認する。9時5分。きっとレイはもうレストランで、朝食をオーダーし終えている頃だろう。  ここ1週間ほど忙しくて、彼のギャラリーへ足を運ぶことが出来ず、会うのは久しぶりだ。リチャードは早くレイの顔が見たかった。  ものの7、8分ほど走ると、もうクラレンス・オークションハウスの入り口に到着する。ロンドン中心部というのは、思ったよりも狭い区域に密集しているのだ。  リチャードは下車して乗車賃をチップ込みで支払うと、オークションハウスの建物の中に入る。入り口には黒いスーツを纏った屈強なガードマンが二人立っていて、リチャードが入ろうとすると「おはようございます、ミスター」と挨拶をしてくれた。  入ったところにはレセプションとロビーがあり、その並びの奥にレストランがある。すでに商談などで利用されており、結構席が埋まっていた。レイはよくここへ朝食を食べに来る、と以前話していたことがあったのを思い出す。確か彼のお気に入りの席は、奥の方ではなかったか……とリチャードが店を覗き込むと、レストランのスタッフが目ざとく声を掛けてきた。 「ご朝食ですか?」 「友人がここに来てると思うんだけど……」

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